オフ会から数日経ったある日、木更と理恵は人形教室の授業を受けた後、 尚美と一緒にファーストフード店で食事をしながら、オフ会の話をして居た。
「え~、そんなにバリエーション豊かだったんだ。
私も行きたかったなぁ」
楽しそうにオフ会の報告をする木更の話を聞いて、尚美は心底羨ましそうな顔をする。
そんな尚美の頭を、理恵はよしよしと撫でる。
「今回の主催さんには、機会が有ったらまたやって下さいってお願いしたし、 機会が有ったらまたやってくれるって言ってたから」
その言葉に、尚美は少し拗ねた顔をしながら、理恵のスマートフォンをつついた。
「ねぇ、オフ会の写真って無いの?
集まったって言うお人形、私も見たいな」
頬杖を突いて口を尖らせる尚美に、ちょっと待ってね。と言って理恵と木更がスマートフォンをタップする。
そして、画面に写真を表示させて尚美の前に差し出した。
写真を見たいと言った尚美本人が、写真を見て驚く。
「え?なんか想像以上にごっちゃなんだけど、これほんとにみんなで意思疎通出来たの?」
だいぶ前に人形のオーナー同士の間にある溝について聞かされていた尚美が、思わず木更と理恵を交互に見て訊ねた。
苦笑いをしながら、木更が答える。
「正直、オフ会に行く前はちょっと不安だったんだけど、今回参加した人達はみんなオフ会が初めてだったみたいで、 逆にスムーズに会話出来たよ」
理恵も、穏やかに笑って言う。
「実際に合ってみる前から壁を作るのは良くないなって、改めて思っちゃったわ。
偏見を持ってた自分がはずかしくなっちゃったなーって」
「そっか。
行けなかったのは残念だけど、楽しかったみたいで何より」
木更と理恵の言葉に尚美はにっ。と笑って、コーラに刺さったストローを吸う。
時折木更と理恵がスマートフォンに表示されている写真を送っていくと、それを見て尚美は表情を緩ませる。
自分が参加出来なかったオフ会の写真を、あたかも自分が参加したかの様に眺める尚美に木更は、 次こそは一緒に参加しよう。と声を掛けた。
それから二ヶ月ほど経って、木更がパソコンでインターネットをして居ると、 人形のSNSにオフ会のトピックスが立っていた。
トピックスを立てているのは、見覚えの有る名前。それを見て木更は理恵の方を向いて声を掛ける。
「理恵、七海さんがまたオフ会やるみたい」
オフ会の知らせを聞いて、理恵は学校のノートを見ていた顔を上げる。
「七海さんがオフ会って、またピクニック形式だったり?」
「そうそう。
ただ、今回は暑い時期の開催だから、各自熱中症対策してね。って書いてある」
「そうなんだ。
尚美に教えておく?」
「うん、よろしく」
理恵がクッションの上に置いてあるスマートフォンを手に取るのを見てから、 木更はパソコンのディスプレイに視線を戻す。
日付を確認して、バイトのシフトを上手く調整出来るか、少し心配はあったけれど、 一ヶ月先の開催なら、今からでも何とかシフトの調整は出来るだろう。
無事に休みが取れる様、木更もスマートフォンを右手に持ち、バイト先の電話番号を表示させて念を送ったのだった。
そして一ヶ月後。今回は尚美も一緒に、七海が主催のオフ会に参加した。
前回の参加者は全員居るかと思ったが、休みの都合が付かず来られなかった人も居る様子。
けれどもその代わりに、尚美も含め、主催の七海と初対面の人も数人居た。
待ち合わせ場所の駅の前で閑談しながらメンバーが揃うのを待ち、揃った所で公園へと移動する。
移動した先でブルーシートを広げ、前回同様各々自分が持って来た人形を取り出す。
その取り出された人形を見て、理恵は思わず微笑む。今回もまた、様々な人形を持ち込んでいる人が居て、 そして皆それぞれに愛情を注いでいるのがわかって。
そんな些細で当たり前の事が、嬉しく、愛おしく、幸せだった。
他のメンバーの話を嬉しそうに聞いている理恵とは対照的に、木更と尚美は次々と他の人形について訊ね、 交流を深めていく。
その中で木更が、前回のオフ会参加者で、今回は小さな人形も持って来ているユカリにこう訊ねた。
「そう言えば、前回のオフ会の後に戴いたフォトブック、すごく良かったです!
私もあんな本作りたいんですけど、どんなお店で作って貰えるんですか?」
「ああ、あのフォトブックはネットで注文出来るお店なんですよ。
多分、渡したフォトブックにお店のURLが載ってると思うので、良かったらアクセスしてみて下さい」
その話を聞いて、今回初参加の面々がフォトブックに興味を示す。
どんな本?どんな本?と言った様子の参加者を見て理恵は、 こんな事も有ろうかと思って。と言って籠バッグの中からフォトブックを取りだし、初参加の参加者達の間で回して貰う。
アルバムみたいだ。とか、こんな本が作れるんだ。など、フォトブックを見ているメンバーは感嘆の声を上げる。
そんな中尚美が、口をぽかんと開けたまま、フォトブックに見入っていた。
それから一年半ほど経った頃だろうか、七海主催のオフ会の常連とも言える様になっているユカリが、 レンタルカフェでオフ会を開くというトピックスを、SNSで立てていた。
パソコンでそのトピックスを見付けた理恵が、木更にオフ会報告をする。
「なんか今度はユカリさんがオフ会やるみたい。尚美にも連絡入れておく?」
「うん、入れておこうか。日程は?」
そんなやりとりをして、尚美に連絡を入れて。今回も開催までの期間は有るし、途中参加、 途中退出は自由な様だ。最悪仕事の有給が取れなくても、 時間内に多少は顔を出せるだろう。レンタルカフェのオフ会は初めてだね。と言う話をして、 二人はスケジュール帳にオフ会の日程を書き入れた。
オフ会当日、無事に休みの取れた木更と理恵は、いつもの籠バッグに人形を詰めて、レンタルカフェへと訪れた。
「いらっしゃいませ」
二人を出迎えたのは、ユカリ一人。
「どうも久しぶりです」
「あれ?私達が一番乗りです?」
少し戸惑いながら挨拶をすると、ユカリがほっとした顔で答える。
「そうですよ。
理恵さんと木更さんが本日最初のお客様です」
見知った顔にお客様と呼ばれる事に気恥ずかしさを感じながら、席についてメニューを見る。
木更はチーズクッキーと蓮茶を、理恵は紅茶クッキーと紅茶を注文した。
ユカリが、自由に人形を出して良いですよ。と言うので、二人は早速、籠バッグの中から着せ替え人形を取り出して、 お茶の準備をして居るユカリを交えて話をする。
そうしている間にお茶とクッキーの準備が整い、早速食べ始める。
「んふふ、美味しーい」
「こんなに美味しいクッキーがあったら、ついつい長居しちゃうわね」
二人がクッキーをかじっている間にも、他のオフ会参加者がやってくる。色々な人と会話を楽しんで、 その内に尚美も来て。和気藹々とオフ会を楽しんだ。
レンタルカフェの閉店時間よりは少し早いけれど、木更と理恵、それから尚美は、 カフェを出て夕食を食べにファミレスへと入った。
注文をして、料理が届くまでの間に、尚美がこう言い出した。
「私、今日のオフ会のフォトブック作って、他の人との記念品にしたいんだけど、どう思う?」
その問いに木更と理恵は少し驚いて、微笑ましく思いながらアドバイスをする。
「そうだね、トピックスで写真を寄せてくれる人と、欲しい人の募集だね」
「今回のオフ会は人数が多いから、実費は貰わないと辛いわよ?」
「なるほど、やってみるわ」
記念品作りはどうなるかはわからないけれど、三人は期待に胸を膨らませたのだった。