ちょっぴり帰宅

日差しも暖かくなり、学校行事で言うと丁度春休みに差し掛かった頃、悠希は親に呼ばれて、 久しぶりに実家に帰った。

実家は同じ東京都内にあるので、そんなに遠い訳ではないのだが、それ故逆に、 余り実家には戻っていない。

「ただいまー。」

呼び鈴の着いていない引き戸を開けて、中に入ると、出迎えたのは母だ。

「ありゃ、こんなに早く来たの?お父さんまだ寝てるよ。」

早いとっても既に正午を回ろうとしている。

ブランチににももう遅い時間まで寝ている父を起こしに、 入り口近くにある四畳半に入っていってしまった。

「悠希、鎌谷くん、聖史と匠がテレビの部屋に居るからそっち行ってて。

お母さん、お父さん起こしたらお昼作るから。」

一旦ひょこっと顔を出してそう言い、母はまた四畳半に引っ込む。

これはもういつもの事なので、悠希と鎌谷も言われた通り居間に行った。

 

何とか父が起き、昼食を五人家族で囲む。

テーブルの廊下側に座っているのが母。

青い髪を背中まで伸ばし、顔にはまだまだ幼さが残ると言っても過言ではない。

母は結婚が許されるギリギリの年齢、一六歳の時に長女を出産している。

その為子供の年齢の割には若いのだ。

そして、テレビと向かい合う位置に座り、料理の湯気で眼鏡を曇らせているのが父。

色々な髪の色を有する地球人の中でも稀な、玉虫色の髪が特徴だ。

母と向かい合うようにして座っているのが妹の匠。

青色が良く出る蛍光灯の下では、普段は黒髪に見える髪が、実は紫紺であることが解る。

いつもは父の隣でテレビが見える場所をキープしているのにも関わらず、 しっかりと悠希の隣に座って、相変わらずのブラコン振りを発揮している。

悠希を挟み、テレビに背を向けて座っているのが姉の聖史。

長い前髪を残し、背中まで伸びたピンク色の髪の毛を三つ編みにしている。

先日の即売会では、この髪型のまま真っ黒なスーツを着ていたので、 周囲からぽっかーんと浮いていたのだ。

「はい、お兄ちゃん、あ~んして♪」

悠希が帰ってくる前まではテレビに釘付けだった匠が、テレビには目もくれずに、 おかずを箸で抓んで悠希に差し出す。

「なんか照れるなぁ。」

そう言って笑みをこぼしながら、悠希は匠の箸に抓まれたおかずを食べる。

それを見た聖史が鋭い目つきで匠を睨んだ。

悠希を挟んで見えない火花が散る。

それにいち早く気づいた父が、娘二人の気を逸らすために話を振る。

「そう言えば悠希、最近調子はどうだい?」

「うん、まあまあかな。

お父さんは仕事どう?」

宝石商をやっていて家を空けることの多い父は、 今だに自分の子供達と何を話せばいいのかが掴み切れていない。

何とか言葉を探りながら、話をする。

「この頃はねぇ、石も貴金属も値段が上がって来ちゃってて買い付けも大変だよ。」

「え、そうなの?

それで最近金とかプラチナの純度下がってるんだ。」

宝石やジュエリーの話となると悠希は興味津々だ。

高校の時にクラスメイトが銀で彫金をしているのを見て以来、 ジュエリーに興味を持っているのだ。

その話に、同じくジュエリーやアクセサリーに興味のある匠が乗っかる。

「そう!

去年辺りからシルバーも925じゃなくて、 シルバー650って言うのが出てきて純度下がってるの!

安いのは良いんだけど、質がね…」

「とにかく何でも純度を下げないと、今まで通りの価格で出せなくなってきてて、 お母さん困っちゃう。」

「お父さん、プラチナ1000だったら、ウチの軍から少々失敬してこようか?」

「いいいいや、駄目だよ聖史!

日本国の安全を守るために有る軍事用プラチナには手を出しちゃ…」

何とか家族共通の話題が出来たが、聖史の不穏な発言に、父がおろおろし始める。

この辺りが父と悠希の似ている所だろうか。

何とか和気藹々とした雰囲気のまま、昼食は終わるのだった。

 

†next?†