「少し、寄り道しようか」
おじさんがそう言い、ふと足を向ける方向を変えた。
すると、目の前に薄緑や淡青、淡紫、それから白色に、ほのかに光を放つ塊が浮かび始めた。
触ってご覧。と言うおじさんの言葉に、少年はなだらかなその塊を撫でる。
それから、はっとした様におじさんの方を向く。
「僕これ知ってます!
翡翠ですよね?」
知っている石に会えて嬉しいのか、少年は弾む声でおじさんに声を掛ける。
おじさんは、その通り。と言って少年を褒める。
それから、少年の言葉に付け加える。
「宝石名は『翡翠』なのだけれど、鉱石名でヒスイ輝石。と言うと、そう言う薄い色の物しか無いんだよ」
その言葉に、少年はきょとんとする。
「薄い色のしかないんですか?
だって、琅玕って凄く濃い緑ですよ」
ほう。と声を上げてから、おじさんが少年の疑問に答える。
「琅玕と呼ばれる様な深い緑の物は、厳密にはオンファス輝石と言うんだよ。
宝石名で『翡翠』と言うとそれも含まれてしまうけれど、別の物なんだ」
今まで知らなかった翡翠の知識。それを知って、少年は尊敬の眼差しをおじさんに向ける。
そんな目で見られてはかなわないね。と言って、おじさんはまた歩を進めた。