専門学校に入ってひと月もした頃、ステラは頭を悩ませていた。
睡の誕生日がもうすぐなので、何か誕生日プレゼントを渡したいと思っているのだが、 なかなか良い案が浮かばないのだ。
余りにも悩みすぎて、バイトが終わって帰るなりぐんにょりするステラの事を、サフォーとルーベンスが心配する。
「ケコォ、ご主人様がこんなに悩むなんて、久しぶりケコね」
「んんぅ~、ご主人様、元気出して?」
サフォーとルーベンスの心配にも、ステラは突っ伏した顔を上げない。
二匹がオロオロしていると、ステラの口からか細い声が聞こえてきた。
「睡の誕生日プレゼント、何をあげたら喜ぶかなぁ……
わからんかってん……」
「んもぅ、ご主人様もお誕生日近いのに、こんなに沈んでたら睡様も心配するケコよ?」
「そうなんだけど……」
睡とステラの誕生日は二週間後。
それまでに気の利いたプレゼントを用意しなくてはとどうしてもステラは焦ってしまっていた。
その翌日、ステラは悠希にメールを送った。
散々カエル二匹に泣き言を言った末に、心の籠もったプレゼントなら、 きっと睡は喜んでくれるというカエル二匹の言葉を信じ、悠希にプレゼントのオーダーメイドを頼もうと思ったのだ。
素直に恋人へのプレゼントと言うのは恥ずかしかったので、 凄く仲の良い女の子へのプレゼントだと伝えたら、悠希はそれを考慮してデザインを考えてくれるという。
ステラからの贈り物なら、石を使った方が良いかと言う悠希に、ステラは是非その通りにして欲しいと返信する。
そうして、ステラは悠希にブレスレットを作って貰う事となった。
「ご主人様、ブレスレットだったら自分で作れば良いのにぃ~」
「ゴムブレスじゃない、代わり映えの有る物が良かったの」
「でも、確かに睡様はブレスレット好きって言ってたケコね」
メールでのやりとりの後、暫くしてステラの携帯電話にメールが来た。
発信元は悠希で、どうやらデザインの確認メールのようだ。
添付画像を開きデザインを確認すると、円形のワイヤーに細かいビーズを配し、 所々等間隔に五つの大きめの石があしらわれている。
画像だけではどの様な石が配されているのかはわからなかったが、メール本文に詳しく書いてあった。
左から順番に、一個目はアズライト、二個目はダンビュライト、三個目はオニキス、 四個目はルチルクォーツ、五個目はエピドートだと言う。
それを見てステラは不思議そうな顔をする。
実物を見た事が無い石が含まれているというのもあるのだが、何故この組み合わせなのか。それが疑問だった。
悠希の事だからデザイン重視で石を選んだ結果なのかもしれないが、もし何か他の理由があるのなら、 受け取る時に訊いておこうとステラは思った。
それから数日後、ステラは悠希からブレスレットが仕上がったという連絡を受け、 受け取りの為に待ち合わせをしていた。
いつもの喫茶店で、お互いコーヒーとアイスティーを飲みながら話をする。
「はい。これが今回の依頼の品だよ」
そう言って悠希が取り出したブレスレットを見て、ステラは素直に綺麗だなと思う。
「かわいいデザインね。なんか数の足りない太陽系みたい」
「そう見える?」
「うん。でも相手の子は天文とか好きだから喜んでくれそう」
「そっか。良かった」
ほっとした様子の悠希に今回の代金を支払い、改めてステラが訊ねる。
「そう言えば、今回使った石に何か意味は有るんですか?余り聞かない名前だったり、 組み合わせたりしない感じのもだったから」
「組み合わせの理由?」
ステラの問いに、悠希はテーブルの上の紙ナプキンを一枚取り、 ボールペンで石の名前を順番に並べて書く。
「アズライト、ダンビュライト、オニキス、ルチル、エピドートでしょ?
これの頭文字をとると……」
そして、誕生日近くの待ち合わせの日。 ステラは自力でラッピングしたブレスレットを持って睡に会いに行った。
デートも兼ねると言う事で、今回の待ち合わせ場所は鉱石も扱っているバラエティストアの前。
時間よりも少しだけ早く落ち合い、バラエティストアの中を見て回る。
鉱石のある場所を見て、雑貨も見て、その後に地下道を通って近くの高層ビルに入っているプラネタリウムへ。
そして、プラネタリウムで星を見た後は水族館へ。
思っていたよりもロマンチックな時間に、ステラと睡以上にサフォーとルーベンスがうっとりとしている。
二人が水族館を出たのは、夕食時よりも少し早い時間。
「睡、どうする?もう晩ご飯食べに行っちゃう?」
「ん~、そうだなぁ、このまま他の所見に行っちゃったら今度は食べ逃しそうな気がするから、晩ご飯にしようか」
そんな話をして、何を食べようかと言いながら、レストラン街へと向かった。
色々と悩んだ末に、入ったのはオムライスのお店。
チキンスープを飲んで、各々オムライスを食べて、積もる話をする。
毎日会える訳では無いけれど、頻繁に会えない訳では無い。 けれども、会えない時間にお互いが何をしているのかが知りたかった。
ステラは、相変わらず学校とバイトだよ。でも、学校で彫金の勉強もしてるかな?等と言い、 睡も入学してからバイトを始めていて、今欲しい物が有るからお金を貯めていると言う。
ステラはそれを聞いて、欲しい物が有ったのならそれをプレゼントすれば良かったかなと思ったのだが、 どうにも難しそうな物が欲しいようなので、これは自力で買って貰った方が良いのかな?と考え直す。
お互い食事が終わり、食後の飲み物を飲んでいる時に、ステラが鞄の中からプレゼントを取り出して睡に渡す。
「あの、これ、誕生日プレゼントなんだけど」
すると睡は、少し頬を染めて受け取り、こう言う。
「あ、ありがとう。
ねぇ、開けても良い?」
「おう、勿論よ」
ステラも少し顔を赤くしながら、睡がラッピングを剥がすのを見守る。
ラッピングの中からブレスレットを取り出した睡は、早速手首に填めてはにかむ。
「可愛い!ありがとう。これ、どこで買ったの?」
無事睡に喜んで貰えて安心したステラは、ブレスレットの説明をする。
「知り合いに頼んで作って貰ったんよ」
「そうなの?じゃあもしかしてこれに使ってる石って、やっぱりパワーストーン的な何かなの?」
石を一つ一つ指で撫でている睡に、ステラはテーブルの上にある紙ナプキンを一枚取りだし、石の名前を書き並べる。
「アズライト、ダンビュライト、オニキス……」
ステラの文字を一語ずつ読んでいく睡。
全部書き終わった所で、ステラは頭文字に丸を付けていく。
「これ、頭文字取って」
「頭文字?A、D……って、あ……」
ブレスレットに込められた意味を察した睡は、顔を真っ赤にして俯く。
「こう言う事、口で直接言わない辺りステラらしいよね」
「嫌だった?」
「嫌じゃないし、嬉しいけど、もう」
少しだけむくれた顔を見せて、睡も鞄の中から可愛い箱を取り出し、ステラに渡す。
「はい、これ。ステラのお誕生日プレゼント」
「わあ、ありがと。開けて良い?」
「うん」
ちゃんと自分の分のプレゼントが用意されていた事に照れながら、ステラもラッピングを剥がし、箱を開ける。
するとその中には、プラスチックの様な物で出来た、青い小さな花が沢山あしらわれたブローチが入っていた。
「可愛いブローチだね。なんていうお花なの?」
「勿忘草。ローラのお兄ちゃんの知り合いでそう言うの作れる人が居るって聞いたから、頼んで作って貰ったんだ」
「そうなんだ。ありがと。
やっぱり、このお花も意味とか有るの?」
「花言葉は『私を忘れないで』なんだけど、ステラいつも忙しそうにしてるから、忘れられたらやだなって」
意外と自分の事を観察されているなと言うのがわかったステラは、少しだけ申し訳なさそうに笑って睡に言う。
「ごめん。でも、これを着けてればいつでも睡の事思い出すよ」
「本当?良かった」
お互いのプレゼントを見て、笑い合って。
夕食後折角だから展望台で夜景でも見ようと、二人は席を立ったのだった。