第五話

 今日も新しいホムンクルスが仕上がった。いつも通りのかわいい仕上がりに満足したドラコは、早速家の中に作ってある撮影ブースで新作ホムンクルスの写真を撮って写真中心のSNSにアップする。そうしてから思い出したように、先日ペリエと一緒に入った喫茶店で食べたケーキの写真もアップした。その写真にはドラコが注文したケーキだけでなく、ペリエのものも一緒に写っていて、ふたりの手も入っている。
 SNSにホムンクルスの写真をアップするのは告知と宣伝を兼ねているのだけれども、日常の写真を載せるのは、ドラコのアカウントを他人が勝手に自分のものだと吹聴して回るのを防ぐ目的もある。はじめの内はホムンクルスの写真だけを載せていて、勝手に騙る人が出てきて困ったので、対策を打ったのだ。
 写真を載せて、そのままぼんやりとSNSの写真を眺める。フォローしているアカウントに統一性はなく、手帳デコだとか旅行だとかジュエリーだとかお菓子だとか、取り留めのない写真がタイムラインに並ぶ。
「手帳デコ、やってみたいなぁ」
「やってみればいいじゃん」
「センスがないんだなぁ」
 スマートフォンでSNSを見ながら、ドラコとゼロとでたわいもない話をする。そうしていると、メッセージアプリの方に通知が来た。なにかと思ったらマロンからのメッセージだ。メッセージには、いつも一緒に写真に写っている人は誰なのかという疑問が書かれていた。
 そういえば、ペリエとの付き合いも結構長くなっているのに、いまだにマロンに紹介していなかったというのをドラコは思い出す。学校卒業後にできた友人だという旨を返すと、マロンからすぐさまに、その人に会ってみたいと返事が来た。
 ドラコは少し考える。急に言われて会わせていいものかという気持ちと、どちらも付き合いが長いのだから会わせてもいいのではないかという気持ちがあるのだ。少し考えて、メッセージアプリの送信先を切り替えてペリエにメッセージを送る。今度学校時代からの友人を紹介していいか訊ねるためだ。
 もしかしたら仕事中かもしれないので、すぐに返信が来るとは思っていない。だからメッセージで送ったのだけれども、ペリエからの返信はすぐに来た。パーティーハットを被って笛を吹いている絵文字と一緒にOKとある。それを確認して、ドラコはマロンに今度セッティングをすると伝えた。
 それから数日後、予定のすり合わせをして三人は繁華街の駅近くで待ち合わせをした。ドラコとマロンは予定に融通を利かせやすいのだけれども、ペリエは直接依頼人と会って仕事をすることが多く、予定が埋まりがちだ。なので、ペリエの予定に合わせて日時を決めた形になっている。
 ドラコが待ち合わせ場所に着くと、予想通りペリエは既にそこにいた。初めての相手に会うから特別めかし込むということはせず、いつも通りにゆったりした上着とストレートパンツ、それと今日は唐草模様のマスクだ。
「ペリエお待たせ」
「そんな待ってないよ。でもドラコ、ドラコのお友達もう来てたりしない?
どんな感じの人なのか知らないから来てても私気づかない」
 それもそうだと、ドラコとゼロは周囲を見渡す。それから、ゼロがこう言った。
「まだ来てないね。まぁ、いつも遅れがちな子だから」
 ゼロの言葉に、ペリエは口を尖らせてから訊ねる。
「結構時間にルーズな子なの?」
「いや、道中ナンパにあって電車逃すタイプ」
「あー、そういうタイプ。大変ね」
 ペリエとゼロがやりとりをしている間も、ドラコは周囲を見渡している。そしてふと、手を上げて振った。
「マロン、こっちこっち」
「ドラコちゃん遅れてごめん! 例によって」
「わかってるわかってる」
 ドラコの声を聞いて、ペリエがドラコが話し掛けている女性を見る。ふんわりとした巻き髪にフェミニンな服とマスク。この雰囲気だとナンパもさもありなん。とペリエは納得したようだ。
 髪の乱れを直しているマロンを指してドラコがペリエに言う。
「この子が私の学生時代の友達のマロン」
「あら、よろしくね。私はペリエって言います」
 ペリエの自己紹介に、マロンも軽く頭を下げて返す。
「ドラコちゃんの友達のマロンです。よろしくお願いします。あと、この子はドラコちゃんが作ってくれたミイっていいます」
 軽く名乗ったあと、マロンは顔の近くに浮いているミイの頭を撫でてペリエに紹介する。ミイも軽くお辞儀をした。
 揃ったところで、もうお昼時だしどうするかという話になる。当然食事をするという話になるのだけれども、すぐさまに店舗情報を挙げていったのはミイだ。
「いや、ミイのうまいもん情報はすごいな」
 思わずゼロがそう呟く。どれだけマロンがミイを連れて飲食店を巡り歩いているかを伺い知ることは容易いようだった。
 自慢げにミイが胸を張った後、みんなで選んだ店までマロンが先導する。その足取りも慣れたものだった。
 店に入り席に着くと、ドラコはすぐにまた席を立つ。なにかと思ったらお手洗いのようだった。
「ふたりともメニュー見てて」
 そう言い残してドラコが店の奥に行くと、マロンがテーブルの上に身を乗り出して、はす向かいに座っているペリエに訊ねる。
「そういえば、ドラコちゃんとはどんな知り合いなんですか?」
 それを聞いて、ペリエはくるくるとゼロとミイの方を向いてから答える。
「SNSで知り合ったんだ。ドラコが作った清浄ホムンクルスっていうのに興味持ってね。それで話が盛り上がっちゃって今に到る」
 一旦言葉を切って、ミイを指して続ける。
「その子も、ドラコが作ったんでしょ?」
「うん、そうだけど」
 返事をするマロンの声は、どこか不満げだ。どうしたのだろうとペリエが思うと、マロンが軽く下唇を噛む。不満の表情だ。それに気づいたゼロがマロンに声を掛ける。
「落ち着け落ち着け何があった」
 するとマロンは、手をぎゅっと握って言う。
「ドラコちゃんのことを横取りしないで欲しいの」
 それを聞いて、ペリエは薄く口を開ける。まさかそんな風に思われているとは思わなかったのだ。戸惑うようにマロンに言う。
「別に私はね、ドラコのことを横取りはしてないの。
それに、ドラコが誰と付き合うかはあの子の自由意志でしょ?」
「そうだけど、でも」
 納得できない様子のマロンに、ペリエはさらに続ける。
「それに、独り占めしようとしない方がドラコは構ってくれるでしょ」
 すると、ゼロとミイも頷く。
「わかる。そういうところある」
「そういえばそういう子だったね」
 ホムンクルスにも同意されて、ようやくマロンも納得したようだ。
「まぁ、そんな気はする」
 そこまで話したところで、ドラコの足音が聞こえてきた。
「お待たせ。注文決まった?」
「あらやだ。話し込んじゃってメニュー見てなかった」
 ドラコの言葉に、ペリエとマロンははっとしてメニューを開く。ドラコも特に疑問を持たずに、一緒にメニューを見ている。
「ふたりとも、仲良くなれそう?」
 無邪気にそう訊ねるドラコの言葉に、ペリエとマロンは曖昧な笑みを浮かべる。どうやらどちらも自信はないようだ。
 注文するメニューを決め、店員を呼んで注文をする。ペリエとドラコはデンファレのソースのステーキで、マロンはパンジーのサラダが付いたレディースセットだ。
 注文をした後、マロンがドラコに訊く。
「ねぇ、ペリエさんってドラコちゃんの彼氏だったりしない?」
 それを聞いてドラコは思わず吹き出す。ころころと笑ってから、質問に答える。
「それはないって。友達だけど」
 それに続けて、少し呆れ声でゼロが言う。
「だから言ってるでしょ。ドラコはそういうのと無縁だって」
 すると今度は、ペリエの方はドラコをどう思っているのかとマロンが訊く。答えはこうだ。
「今のところ恋人になる気はないかな」
「そうなんだ」
「それに、恋をすると半分童貞でなくなるから、呪術師っていう職業的にちょっと……」
「呪術師厳しい」
 そのやりとりを聞いて、ミイも呆れた声を出す。
「食事の前にそういう話題はちょっと……」
「ほんとごめんて」
 ミイに謝るペリエの様子を見て、マロンは満足げな口元になっている。どうやら本当にドラコとペリエが恋人ではないとわかって安心したようだった。
 その様子を見たゼロは、マロンの王子様は放って置いていいのだろうかと、少しだけ思った。

 

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