第八章 外にも目を向けよう

 ある日の会議のこと。紙の守出版のアピールのために何かイベントをやろうという話が出ました。

 正直なところ、小説大賞もそれなりに応募作品が集まっては居るのですが、 そんなに有名なわけでは無かったりします。

 なので、出版社その物の知名度を上げようと、そう言った案を出し合っているところです。

 会社の性質の都合上、小説家を沢山抱えたいのですが、その為には今有る作品をアピールすることが、 会社のアピールに繋がるのではないかと、そんな方法で話が流れていきます。

「作品アピールって、何か案有る?

書店さんで特集組んで貰うとか?」

「特集を組んで貰うのも良いけど、またサイン会なんかやったらどう?

あれ、好評だったじゃない」

「サイン会かー。

確かに好評だったし、前回やってからだいぶ経ってるから、余裕有りそうな作家さんに相談するか」

 サイン会。そう言えば、前にバースト様がサイン会をやって欲しいと仰っていましたし、推していきますか。

「サイン会は、結構メールでお寄せいただいている意見の中でも、要望の多いイベントですし、 やっても良いのでは無いでしょうか」

 私のその一声で、語主様は納得した方な顔をして、こう言います。

「わかった。じゃあそう言う方向で進めるか。

どっかの書店でスペース借りるのが良いよな?

思金、手配を頼んだ」

 その言葉に、思金様はあからさまに面倒くさそうな顔をして抗議します。

「えー、なんで僕が手配しなきゃいけないの?」

「今一番暇なのお前だろ」

「そうだけどー……解せぬ」

 いや、実際そうなんですから働いて欲しいところです。

「美言はネットでの告知を頼む」

「かしこまりました」

「そう言うわけで、各自仕事に戻るように。

解散!」

 そうして、サイン会を開催すると言う事が決まり、この日の会議は終了しました。

 

 紙の守出版の公式webサイトにサイン会の告知を出して数日。SNSのアカウントの方にメッセージが届きました。

「にゃにゃにゃーん!バーストにゃんにゃ!

今度サイン会あるって聞いたけど、もしかしてそれに合わせて新刊の発売有るのかにゃ?」

 流石バースト様。こちらから情報を渡す前にキャッチしていた様子。

「そうですね、何種類か新刊が出るので、その新刊の作家さんから一人選んで、発売記念サイン会という形になります」

「にゃ~ん。

サイン会して欲しいって言うバーストにゃんのお願い、聞いてくれたにゃ?」

「いえ、普通に要望が多かったんです」

 実を言うと、バースト様からの要望も少し頭を過ぎっては居ましたが、 ここでそれを言うと今後がどうなるのかわからないので、敢えて言わないで置きましょう。

「そうにゃん?

まあいいにゃ。それじゃあバーストにゃんはその日に合わせて日本国行くにゃん。

サイン会当日はよろしくにゃー」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「それじゃあ、楽しみにしてるにゃ!

ばいにゃ!」

 どうやら、バースト様も楽しみにしていただけているようで良かったです。

 今回は日本国に来ても、案内がいらなさそうですし、こちらも仕事に専念出来ますかね?

 取り敢えず、当日不手際が無いように、きちんと段取りを決めておかないといけませんね。

 

 そしてサイン会当日、語主様と思金様は他の仕事があるので会場には来ていませんが、 私と他数人の神がスタッフとして来ていました。

 なかなかに人が集まっているので、受け取った差し入れの整理など大変ですが、来て下さった方皆さん、 満足そうな顔をしていて、サインをしている作家さんも嬉しそうです。

 さりげなくプリンセペル様やメディチネル様もサイン貰って差し入れを下さったりしていましたが、 仕事中の我々に話しかけるのは悪いと思ったのか、軽い挨拶だけして、 会場になっている書店の本棚へとすぐに向かって行っていました。

 サイン会開始から暫く。だんだん人が減ってきたあたりで、見覚えの有る猫耳が手を振って私の方へやって来ました。

「にゃんにゃんにゃーん!

美言しゃん、お疲れ様にゃん」

「ようこそいらっしゃいましたバースト様。

サイン会には参加されたのですよね?」

「そうにゃーん。

本買って、サイン貰って、本見て、で、ここにまた来たら美言しゃんがいたのにゃ」

「わざわざ挨拶に来て下さったのですか、ありがとうございます」

 ふと、なつっこい顔をするバースト様に尋ねたくなりました。

「バースト様、我が社の作品をたいそう気に入って下さっているようですが、自国の物はどうなのですか?」

「エジプトのポップカルチャーかにゃ?

もちろん、いーっぱい楽しんでるにゃん。

でも、ここ近年、日本国の物もとっても面白いし、数があるにゃ。よりどりみどりにゃ。

ちょっと他の国への売り出し方が下手な気はするけど、魅力有るコンテンツにゃん」

「お褒めいただきありがとうございます」

 有りがたいお言葉にお礼を言うと、バースト様は少しだけ困ったような顔をしてこう続けました。

「でも、日本国はちょっと閉鎖的にゃー。

他の国ももっとよく見ると、面白い物いっぱいにゃん。

そう言うのに余り目を向けないのが、日本国の弱味な気はするにゃ」

「そうですね、確かに言われると、他の国に比べて自国以外に目を向ける割合は少ない気はします」

 言われてみれば、日本国は些か閉鎖的な部分が有ります。

 今後日本国が発展するために、もっと諸外国の文化を知る機会が有っても良いような気がしますね。

 ただ、その機会を神が作っても、人間が受け入れるかどうか。

 鎖国していた頃に比べればだいぶ交流出来るようにはなりましたけれど、なかなかに難しい問題ですね。

 

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