第六章 制作元へのパッション

 いつも通り仕事をこなしていたある日のこと。紙の守出版が持っているSNSのアカウントに、 メッセージが飛んできました。

「今度日本国に行きたいにゃん。

紙の守出版の新刊をお取り置きしておいて欲しいにゃん」

 送信元を見ると、どうやらエジプトにお住まいの猫神様、バースト様のようです。

 この方も、先日お電話戴いたプリンセペル様のように、我が社の作品を楽しみにしてくださっています。

 しかし、お取り置きと言われましても、お取り置きをするのは書店のお仕事なので、 正直書店に言ってくださいとしか言えないのですが……

「日本国にいらっしゃるのは良いのですが、本のお取り置きは書店にお問い合わせください」

 そうメッセージを返すと、すぐさまに返事が返ってきます。

「そっかー。やっぱ書店じゃ無きゃだめなのにゃー。

それじゃあ、書店で新刊買うから、サイン会企画してほしいにゃ」

「企画を立てるかどうかはこちらの采配ですので、いきなりその様なことを言われましても……

作家さんの都合も有りますし」

 相変わらず無茶振りしてきますね。

 でも、バースト様は割と言えば聞いて下さる方なので、引き下がってくれるでしょう。

「そうかにゃ。残念にゃん。

今回の日本国行きではだめだけど、その内また企画してほしいにゃ。

そうしたらその時また日本国に行くにゃん」

「日本国にお金を落としてくださって誠にありがとうございます」

 素直に引き下がって下さいました。

 今度日本国に来るとのことですが、バースト様は海を隔てたところと行かないまでも、 割と外国へ旅行に行くのが好きな方なので、今回日本国に来る時も、案内人無しで大丈夫でしょう。

 ……と、思っていたら。

「それじゃあ、再来週あたりそっちに行くから、紙の守しゃんの中から誰か一人、ガイドをお願いしたいにゃ」

「えええ……

ガイドが必要なところに行かれるんですか?」

 何度も日本国に来ている手練れが、まさかガイドを必要とするとは。

 驚いていると、バースト様が言うにはこう言う事です。

「東京は迷宮にゃん。

バーストにゃんは、秋葉原に行きたいにゃ。

秋葉原は人が多くてよくわかんなくて、危ないって聞いたからガイドほしいにゃん?」

 なるほど、秋葉原ですか。

 バースト様は、幼くて可愛らしい顔をしていますし、猫耳が生えているので、 そんな方を秋葉原で野放しには出来ませんね。

「確かに。

バースト様が秋葉原に行ったら危険しか感じないので、ガイドというかガードが欲しいですね」

「それじゃあ、今話してるのが誰かわかんないけど、語主しゃんに話通して置いてにゃ!

ばいにゃん!」

 ふう、バースト様も大概マイペースですね。

それに、SNSでこんな話を振ってくるなんて。

 他の人に見られないメッセージだから良かったですけれど、これ、 紙の守出版を見て下さっている人間の方々が見たら、 色々な要望をここから送って良いんだと思われて大変な事になっていたかも知れませんね。

 

 それから二週間後。

 仕事は全体的に少し忙しかったのですが、バースト様を放って置くわけにも行かないので、 組版をしようにもまだ来ていない原稿があってやや余裕の有った私が案内に出ることになりました。

 待ち合わせ場所は、秋葉原駅前です。

 出口が三カ所有るのでわかるかどうか心配だったのですが、 新宿よりは遥かにまし。と自分に言い聞かせて電気街口で待っています。

 暫く改札前で待っていたら、改札の奥から見覚えの有る猫耳が手を振ってやって来ました。

 切符を自動改札機に通し、にこにこと私に声を掛けます。

「にゃんにゃんにゃーん!

美言しゃんお久しぶりにゃん!」

「お久しぶりですバースト様。

所で、本日は秋葉原のどこをご覧になりたいのでしょうか?

やはり電気屋さんですか?」

「電気屋さんもちょびーっと気ににゃるけど、今日はアニメショップを見たいのにゃ」

「アニメショップですか?」

 確かに、バースト様は我が社の作品をいくつも読んでいたり、日本のアニメを気にしたりしていますが、 まさかアニメショップをみたいと言い出すとは思わなかったので、驚きました。

「エジプトでは、日本国のアニメ放映されないにゃ」

「そうですね。電波が届きませんし」

「だから、今日はいーっぱい日本国のアニメ円盤買いに来たのにゃん!」

「そうなのですか?

最近はインターネットで配信しているところもありますけれど」

 インターネット配信している作品ばかりではありませんが、それでは物足りないのかと思い訊ねると、 こう返ってきました。

「ネット配信は、期間限定が多いにゃん」

「そうですね、多いですね」

「有料会員になっても、データのダウンロードが出来なくて、配信元が無くなったら終わりにゃん」

「確かに」

「違法アップロードサイトはいっぱい有るけど、そう言うところで観るのは制作者にお金が入らないし、 ウィルスとかも危険にゃん」

「そうですね、ウィルスやスパムを仕込んでいるサイトも沢山有りますし、 制作側としても、お金が入らないと困ります」

 なるほど、ネット配信は言われてみると、リスクが大きい気がします。

 それなら、何度も楽しむのを前提で円盤を買うのが効率は良い気がします。

「バーストにゃんはジャパンクリエイターを応援したいにゃ。

だから、ネットで評判聞いて気になったアニメの円盤をいっぱい買うにゃ」

「でも、好みに合わなかったらどうするんですか?」

「その時はその時にゃん。

エジプトも神がいっぱい居るから、誰かしら気に入るにゃ?」

「そうなのですか、ありがとうございます」

 エジプトの神々にそんなにアニメが浸透しているのかという疑問は有りましたが、 バースト様のありがたい言葉を聞き、二人でアニメショップへと向かって。

 いっぱい買うと言ってもボックス一つか二つくらいだと思っていたので、 端から端まで全部。と言わんばかりの勢いで買っていたのは流石に驚きましたけれど、 こうやって正規ルートで作品を買ってくれるファンが居ると、制作元としても励みになるのだろうなと思いました。

 

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