第六章 オフ会当日

 穏やかに晴れ、日差しが降り注ぐロータリー。

オフ会当日の午前、七海は大荷物を持って、他のメンバーよりも早めに待ち合わせ場所に着いていた。

今は待ち合わせ時間の一時間ほど前だが、早めに来るメンバーが居るであろうと言う事を考慮して、 待ち合わせ場所に指定している、オフ会会場の公園最寄り駅の前で立っている。

 ただそこで待っているだけでは、他のメンバーが七海を見つけ出すのが難しいであろうので、 目印として持参した人形を手に持っていると、他の面々にはあらかじめ伝えてある。

普段、人目に付く場所で人形を持つと言う事は余りしないので少し気恥ずかしいが、 どうせオフ会中はブルーシートの上に皆人形を並べるのだし、 遅かれ早かれ他の人にも人形は見られる事になる。だったらいつ出しても同じだろうと、 七海は熱くなっている頬を軽く叩く。

 そうして待つ事二十分ほど、駅の階段を降りてきた、細長いバッグを肩から下げた女性に声を掛けられた。

「あの、お人形オフ会の主催さんですか?」

「はい、主催の七海です。オフ会に参加される方ですか?」

 七海が女性にそう訊ね返すと、女性は安心した顔をしてこう挨拶をする。

「今回オフ会に参加させて戴く睡です。

七海さん、よろしくお願いします」

「睡さんですか、よろしくお願いします」

 まず一人目と合流出来た。その事に七海も安心し、早速睡とオフ会についての話をする。

お互い期待の籠もった話をして居ると、ロータリーに停車したバスから降りてきた、 メッセンジャーバッグを下げている男性に声を掛けられた。

「あの、お人形オフ会の主催さんと参加者さんですか?」

 おどおどして居るその男性に、七海と睡は、オフ会の参加者ですよと言う挨拶をする。

すると、男性は緊張した様子でこう挨拶した。

「今回オフ会に参加する正です。

あの、七海さん、今回のオフ会って俺以外にも男性って居ます?」

「男性ですか?

確か正さん以外にも、もう一人参加予定です」

「そうなんですか、良かったです」

 どうやら男性参加者が自分一人なのでは無いかと心配していた様子。

他に男性参加者が居ると知って、正の肩から力が抜けたようだ。

 それからまた十分ほど待った頃。また駅の階段から降りてきた、大きな籠バッグを持っている、 そっくりな顔をした女性二人に声を掛けられる。

「すいません、お人形オフの方達ですか?」

 そう訊ねてくる二人組に、七海達はその通りだと答える。

その二人もオフ会の参加者らしく、早速七海達と話に花を咲かせている。

 暫くその場で閑談して居ると、七海の携帯電話が鳴り始めた。

待ち合わせ時間にアラームが鳴るように設定して置いたので、そのアラームだ。

 七海は、集まった面々を見渡して思う。

一人足りない。

もしかして欠席かとも思ったが、欠席するならば連絡があるだろう。もしかして少し遅れるのだろうか? そう思い携帯電話を開くと、メールの着信が一件。

中身を確認すると、参加者の一人が駅で迷ってしまい、少し遅れるかも知れないとの事だった。

七海は少し遅れている人が居ると他のメンバーに伝え、残りの一人を待った。

 

 結局、あの後五分ほどで最後の一人も待ち合わせ場所に着き、無事に合流出来た。

 オフ会メンバー達は早速公園へと移動し、七海が持参したブルーシートの上でくつろいでいる。

待ち合わせ場所で大体自己紹介は済ませてしまっていたので、早速皆で話を始めた。

「それじゃあ皆さん、お人形出しましょうか!」

 そう七海が声を掛けると、各々持って来た鞄の中から人形を取り出す。睡と、遅れてきたユカリは、 綺麗なメイクの施された大きな人形を、理恵と木更は手に持てる大きさの着せ替え人形を、正はスリムなカエル人形を、 七海は頭の大きな人形を、ブルーシートの上に並べる。

それぞれ皆、違うテイストの人形ばかりなので気持ちが高まって来たようだ。

「正さんもそのカエル持ってるんですね!

うちにも二匹居るんですよ!」

「うわー、カエルさん可愛い!」

 木更と七海がそう声を上げると、正は正で睡とユカリが持って来た人形を見て、 大きい人形は着せ替えのしがいが有りそうだと言い、睡は木更と理恵が持って来た着せ替え人形を見て懐かしい、 こんなに種類があったんだ!と感動し、ユカリは七海がカスタムした頭の大きな人形を見て、 目の中に色々入っていてすごく凝ってる。と感嘆する。

 暫く統率など有った物では無い状態で、お互いの人形を大切に手に取りながら、 今まで余り縁の無かったタイプの人形を眺める。

 そうしている内に、人形の事について訊ね、訊ねられる。

「七海さん、この目の中に歯車が入ってる子って、このアイは売ってるんですか?」

 興味深そうに睡がそう訊ねると、七海は嬉しそうに答える。

「このアイはレジンを使って自作してるんですよ。

こっちの複眼の子もアイを作ったんです」

「そうなんですか、複眼なんて売ってる所を見た事無いから、びっくりしちゃいました」

 そうしている間にも、理恵が正に訊ねる。

「そう言えば正さん、そのカエル、みんな服を着ていませんけど、何でですか?」

「ああ、服を着せるのもお洒落で良いけど、やっぱカエルは全裸でしょう!」

「妙に納得出来るのが悔しい」

 残るユカリと木更も、楽しそうに話をして居る。

「木更さんすごいですね、この服全部手作りなんですか」

「そうなんですよ。服飾系の学校に通ってて、ドール服も好きなデザインの物が作れるようになったんです」

 その後、睡と理恵とユカリも自分が持って来た人形の話をして。

誰ともなくお腹が空きませんか?と言う声を上げたので、各々持参したお昼ご飯を食べながら、 人形の話に花を咲かせたのだった。

 

 それから数時間、集合時間がそこそこ早かったので、日が暮れる前に解散しようと、皆人形をしまって駅前に居た。

けれども、折角会えた人形仲間とこのまま別れるのは惜しい気がして、駅前で立ち話をする。

「そう言えば七海さん」

「なんですか?」

 籠バッグを持つ理恵に、改めて声を掛けられた七海が返事をすると、こう言われた。

「今回のオフ会、来たかったけど来れなかった友達が居るんです。

だから、良かったらまた企画してくれませんか?

今日すごく楽しかったし」

 その言葉に、七海の胸が苦しくなった。

嫌だった訳でも、傷ついた訳でも無い。ただ、自分が企画したオフ会を楽しみにしてくれていた人が他にも居て、 来てくれた人も楽しんでくれた。それが、苦しいくらいに嬉しかった。

「本当ですか!

それじゃあまた、こう言うピクニックっぽいオフ会、企画しますね!」

 七海の言葉に、正が言う。

「俺、今までオフ会ってなかなか参加する勇気が無かったから、今回参加出来て良かったです。

また企画する時は……仕事の都合がどうか解らないですけど、声を掛けてくれれば何か手伝いますよ」

 睡も、七海に言葉を掛ける。

「もし今度やる時に規模が大きくなって大変だったら、私にも声を掛けて下さいね。

私もお手伝いしたいです」

 それから、木更と理恵、それからユカリも、もしもの時は手を貸すと、七海に声を掛けて。

こんな風に喜んでくれる人、手伝ってくれる人が居るなら、今後もオフ会を開こうという気になるし、 同好の人と交流する事に怯えていた自分にも、仲間が出来たのだと思えた。

 

†next?†