第十章 睡のその後

 人形好きが集まったオフ会の後、睡は度々、人形を扱っている色々なネットショップをパソコンで眺めていた。

今、睡が持っている、大きくて綺麗な人形。それと同種の物以外は、 可愛いと思っても購入しようとまでは思っていなかったのだ。

 しかし、改めて実物を見ると、欲しくなってしまう物で。

「どうしよう、バイト代貯めて買っちゃおうかな……」

 睡が眺めているのは、七海が持っている様な、華奢な体に大きな頭が付いた人形。

流石にネットショップに並んでいる物には、七海がしている様なカスタムは施されていないが、 それでも大きな瞳を強調する様なメイクは、十分睡の目を引いた。

 そう言えば。と、睡はふと思い出す。

七海から、こう言った人形が売られているお店を教えて貰っていたなと。

今度の休日は、またステラと会う約束をして居る。その時に、もしステラの許可が貰えるのならば、 人形が売られている店を見ようかと、睡は思ったのだった。

 

 そして数日後の休日。今日は特に大きい荷物も持たず、睡とステラは電気街にある駅で待ち合わせをした。

駅近くのコンビニ前で待っているステラを見つけ出し、睡が駆け寄って声を掛ける。

「ステラ、お待たせ」

「おう、睡。

今日はお人形のお店見たいんだっけ?」

「んふふ、そうなの。

お人形屋さん見終わったら、石屋さん見に行こうか」

 二人はそんな話をしながら、駅のすぐ側にある、派手な広告が付いてはいるけれども古びたビルに入っていく。

ビルに入り、入り口に近い所に有るエレベーターに乗り登っていく。 なにやら古びた様子のエレベーターなので少し不安になるが、特に途中で止まったりする事も無く、 目的のフロアに到着する。

 エレベーターを降りると、古いビルであると言う事を忘れてしまうほど、綺麗に整った店構えだった。

「睡、このお店?」

「うん。ここでいいはず何だけど……」

 ステラの問いに、この店に初めて来る睡は、自信を持っては答えられない。

取り敢えず、店内を見る事にして廻ってみると、睡よりも背の高い棚が並んでいる一角で、お目当ての人形を見付けた。

どきどきしながら人形の入った箱を手に取ると、一緒について回っていたステラも、箱を覗き込む。

「へぇ、前に見せて貰った人形とはだいぶ違う感じだけど、それも可愛いね」

 ステラの言葉に、睡は照れ笑いをしながら返す。

「この前のオフ会でこう言うお人形を持って来てる人が居てね、こう言うのも可愛いなって思ったんだ」

「へぇ、オフ会で」

 いくつもの種類がある人形を、取り出しては棚に戻しと眺める睡に、ステラも棚に並んだ人形を眺めながら、 偶に睡の手元を見る。

「そう言えば、オフ会どうだったん?

変なのに引っかかってない?」

 少し心配そうなステラの言葉に、睡はステラの顔をじっと見る。

「行く前はちょっと不安だったけど、行ってみたらみんないい人達ばっかりだったよ。

ステラが心配してたような、ナンパをする人も居なかったし」

「おう、それは良かった。楽しめたみたいだね。

またオフ会の予定とか立ってるん?」

「今回の主催さんが、またその内やりたいって言ってたかな?」

 取り留めも無くオフ会の話をして。睡は人形の入った箱を棚に戻し、ステラと一緒にその店を出た。

 

 人形の店の入ったビルから出た二人は、線路の架橋下を歩き、石屋へと向かっていた。

石屋へと向かう道すがら、睡はステラにオフ会の話をする。

どうにもステラは、同好の志とは言え初めて会う人ばかりだったオフ会で、 睡が上手く馴染めていたかどうかが気になる様だった。

そんなステラに、睡は、オフ会で知り合った女の子達とアドレスの交換をしたりしたので、 偶にSNSの交流だけで無く、メールのやりとりもしていると、そう言った。

睡のその言葉に、ステラは少しだけ複雑そうな顔をするが、すぐに笑って、睡の頭を撫でた。

 

 石屋を巡り終わり、遅めの昼食を食べる為に、二人は駅の下にあるレストランに入る。

各々ハンバーグやパスタ、飲み物などを注文し、また話に花を咲かせる。

ステラが買った石についてや、今日睡が見ていた人形について。色々な事だ。

「ねぇ、睡。今度鉱物が沢山集まるイベント有るんだけど、一緒に行かない?」

 ステラの誘いに、睡は微笑んで答える。

「うん、私も行ってみたいな。

でも、今までの話を聞いてると、すごく混んでるみたいだけど……はぐれちゃわないかな?」

 小さな不安を口にする睡に、ステラはいたずらっぽく返す。

「ずっと手を繋いでれば大丈夫じゃない?」

 ステラの言葉に顔を赤くする睡。

それを見て、ステラはテーブルの上に置かれた睡の手を取って、こう続ける。

「まぁ、手を繋ぐまで行かなくても、会場内はちゃんと電話繋がるし、何とかなるよ」

 そんな話をして居たら、睡の携帯電話が鳴り始めた。

「ごめん、ちょっといい?」

「おう」

 ステラに断りを入れてから睡が携帯電話を確認すると、七海からのメールが届いていた。

何でも、今カスタム中の人形に入れるアイを、どの様な感じにしたら良いかとで悩んでいるらしく、 先日のオフ会でアドレスを交換した女子陣に相談したいらしい。

こう言った内容のメールは、七海は勿論、人形の服の細かい装飾で迷った木更と理恵からも来る事があるので、 睡は特に疑問に思う事は無い。

取り敢えず、メールを返すのは家に帰ってからで良いかなと、一旦携帯電話をしまった。

 

 家に帰り、昼間着信した七海からのメールを見返し、返信する内容を考える。

何でも、今回のカスタムで使うアイにどの様なモチーフを入れるかで迷っているのだそうだ。

 歯車モチーフか、それとも蝶々か、もっと可愛らしくお花がいいかなど、かなり悩んでいる様だ。

添付されている、メイクだけを施し直した、アイは元のままの人形の写真を見て、睡も頭を捻る。

パステルカラーで柔らかく、ふんわりと施されたメイクには、お花が似合う気がする。そう思った睡は、 その旨をメールに書いて七海に送信した。

 

 それから数日後、睡が人形のSNSを見ていると、新着で七海の人形の写真が上がっていた。

早速その写真を見てみると、キャプションには、新しくカスタムをした人形であるという旨が書かれていた。

その人形の目をよく見ると、アイの中にラメと、小さなパールと、お花のモチーフが入っている。

「うわぁ。すごく可愛い」

 睡は思わずそう呟いて、その写真にコメントを付けたのだった。

 

 そうして、オフ会で会った人達と偶に交流しながら過ごして数ヶ月、SNSにトピックスが立った。

なんでも、七海がまたピクニック形式のオフ会を開くらしい。

前回の様に、楽しく交友の輪が広げられたらと、睡は参加出来る様に、バイトのシフトを調整しようと、 そう思ったのだった。

 

 なんとか二回目のオフ会にも参加出来る事になった睡は、オフ会当日、初めての時の様に細長いバッグを掛け、 待ち合わせ場所の駅へ向かう。

駅の階段を降りると、前回と同じように、カスタムした人形を手に持った七海が、笑顔で待っていた。

 

†next?†