翌朝、匠は油の音と甘い香りで目を覚ました。
匂いに釣られて台所に行くと、昨夜と同じ様に悠希がコンロの前に立っている。
「お兄ちゃんおはよー。何作ってるの?」
「フレンチトースト。
昨日のうちから牛乳に浸けて置いたから染みてて美味しいと思うよ。」
真ん中で切った四枚切りの食パンが、フライパンの上でいい匂いをさせながら、 こんがりときつね色になっている。
既に用意された犬缶を食べている鎌谷は、悠希と匠の会話を聞きながら思う。
(その気になれば料理できるのにな、あいつ。)
鎌谷とて悠希の心配を全くしていない訳ではない。周りから見るとそうは見えないだけだ。
嬉しそうにフレンチトーストを持ってきた匠と入れ違いに、鎌谷はこたつを離れ、玄関へ向かう。
「ちょっと散歩してくるわ。」
「うん、気を付けてね。」
まだ残るフレンチトーストと、悠希が作ったフルーツサラダの甘い香りが鎌谷を見送った。
暫くして鎌谷が散歩から帰って来ると、 悠希と匠は昨日買ってきたビーズを加工するのに夢中になっている。
即売会で出品するアクセサリーを作って居るのだ。
匠は細いピンに強く煌めくビーズを通してピンを曲げ、それを繋げる。
悠希は柔らかく光を反射するビーズに、細いテグスを通し、編み上げていく。
手法は違えど細かい事には変わりがないその作業を、鎌谷はこたつに潜って眺める。
普段憂鬱な事が多い悠希も、何かを作っている時は表情が明るい。
やはり物を作るのが好きなのだろう。
暫く二人の手元を見ていると、匠の繋げたビーズは煌めくネックレスとなり、 悠希の編んだビーズはころんとした蝶になった。
鎌谷は、こうやってバラバラだった物同士が繋がって、 形になっていくのを見ているのが案外好きだったりする。
偶に言葉を交わし合うとは言え、静かな日曜の時間は過ぎていくのだった。