第二十二章 事の終わり

 ある日の事、悠希がそろそろ病院に行こうと、パソコンの電源を落として浴衣から着物と袴へ着替えていた。

 病院へは、いつもひとりで行っているので、鎌谷は留守番だ。鎌谷もそれがわかっているようで、 万年床の上で昼寝をしている。

 病院へ行ってきます。と書き置きの手紙をちゃぶ台の上に残して悠希が部屋から出ようとすると、 突然、キッチンの側にあるトイレのドアを開けて何者かが出てきた。

「また会ったな、新橋悠希」

 黒くもやのかかったその人物は、悠希を部屋の中に押し戻そうとする。それに、悠希は抵抗する。

「すいませんどちら様ですか!

僕これから病院行かないといけないんです、受付時間が終わっちゃうじゃ無いですか!」

 思わず物言いがきつくなる。それも仕方が無い、悠希はいつも、 病院の受け付け終了間際に病院へ行っている。なので、ここで邪魔をされると受付に間に合わなくなってしまうのだ。

 これで病院に行けなかったとしたら、薬が足りなくなって生活するのがつらくなってしまう。

「いいか、よく聞け」

「なんとなく赤いクラゲのラスボスっぽいなって言うのはわかってるんでどいて下さい!」

 悠希がそう言ってラスボスの事を押し戻そうとすると、逆にラスボスに押されて万年床の上に転がってしまう。

「ふふふ、察しが良いな。我が名は……」

「だから名前とか出生とかどうでも良いからどいて下さい!」

 起き上がり際に、悠希は肘をラスボスの鳩尾に沈める。突然の事だったのか、 ラスボスは呻き声を上げてその場にくずおれた。

 これならなんとか跨いで通れる。そう判断した悠希は、ラスボスを跨いで通り、なんとか家を出る事が出来た。

 

 なんとか病院の受付時間にも間に合い、薬も貰って悠希が帰ってくると、 部屋の中からまたラスボスが出てきて悠希に話しかけてきた。

「待っていたぞ新橋悠希」

「だから邪魔だからどいて下さい!」

 一旦玄関のドアから離れ、勢いを付けてラスボスに体当たりをする。

 すると、ラスボスは勢いよく倒れ、なにやら鈍い音が響いた。

 玄関でのもみ合いを聞いてか鎌谷もやって来て、徐々に薄くなって消えていくラスボスを見ている。

「おー、またスタッフロール流れてんな」

「あ、鎌谷君ただいま」

 スタッフロールが終わるのも待たずに、悠希は部屋の中へと入っていく。

 薬などの入った鞄を肩から下ろし、膝を着いて冷蔵庫から液体栄養缶を一つ取りだし、一気に飲み干す。

「鎌谷君、僕が病院行ってる間、ラスボスは何してたの?」

「あ? なんかずっと正座して待ってたぞ」

「そっかぁ。鎌谷君に何も無くて良かった」

 なんだかんだで一応ラスボスを家に置いていく事に不安は有ったようで、何も無かった事に安心した様子の悠希が、 鎌谷の背中を撫でる。

 その手をぺろりとなめて、鎌谷がお腹を鳴らしながらこう言った。

「それより俺の昼飯はまだかよ」

 そう言えば鎌谷の昼食がまだだった。いつもは病院に行く前に犬缶を開けているのだが、 今日は昼寝をしているようだったので後でにしようと思っていたのだ。

 言われて気がついた悠希は、空になった液体栄養缶を持って立ち上がる。

「うん、いま犬缶開けてくるね」

 液体栄養缶の中を洗うためと鎌谷用の犬缶を用意するために悠希が台所に立つ頃には、スタッフロールも終わり、 ラスボスは消え去っていた。

 

†fin.†