第十四章 昔のクラスメイト

 ある真夜中、鎌谷がふと目を覚ますと、悠希がパソコンのUSBに卓上ライトを差し込んで、 まっさらなテキストエディタを開いてお茶を飲んでいた。

「おう、こんな夜中に起きてどうしたんだ?」

 鎌谷がそう問いかけると、悠希は困ったように笑って答える。

「うん、昔のクラスメイトの夢見ちゃって、起きちゃったんだよね」

 それから、しょんぼりとパソコンデスクの上に置かれたカップを両手で包む。

「もしかして、あいつの事を思い出したのか?

気にすんなよ、早く忘れちまいな」

 悠希は小中学と、ずっとある人物からいじめを受けていた。

 余り他人と話さず、ノートにずっと文字を書き続ける悠希の事を気持ち悪い奴だと、 周りに言いふらし時には暴力まで振るった。

 悠希はそれが溜まらなく嫌だったのだけれども、教師に相談してもどうにもならなかった。

 全て、他人とコミュニケーションを取ろうとしない悠希が悪いということにされてしまっていた。

 それから数年経ち、悠希も一人暮らしをはじめ、学校を卒業した。

 そんなある日の事、姉の聖史から連絡が来た。例のクラスメイトが亡くなったので、葬儀のお知らせが来たというのだ。

 昔散々悠希の事をいじめていたくせにぬけぬけと葬儀に来い等と言うのは納得がいかない。もし悠希が希望するのなら、 聖史の方から断りの返事をするがどうするか。と訊ねられた。

 聖史の話に、悠希はその知らせの手紙を取りに行くと返す。

「僕、お葬式に行ってくるよ」

 その言葉に聖史も鎌谷も反対したが、悠希はお香典の準備をする為に、紙幣数枚を持ってコンビニへと向かう。

 お香典を包む封筒を買うのと、紙幣をなるべく使い込んだ物へと替えて貰う為だ。

 その後実家へと向かい、悠希は葬儀に参列する準備をした。

 葬儀にはお焼香だけの参加だったのだが、家に帰ってきて粗塩を浴びる悠希に鎌谷が訊ねた。

「なんであんな奴の葬式なんか出るんだよ。

お前、嫌な目にしか遭わされてないじゃねーか」

 それに対し悠希は、礼服から着替え、ふくさに包まれた数珠を棚にしまいながら答える。

「そうなんだけど、それでも縁のあった人だし、まだ若いのに亡くなるなんて悲しい事だよ。

僕はよくわからないけど、あの人の両親や家族や仲の良かった人は、きっと悲しいと思うし」

 線香の代わりか、アロマランプを取り出しサンダルウッドを焚く悠希に、鎌谷は何も言えなかった。

 

 鎌谷も起きたので部屋の灯りを点け、お茶を飲みながらパソコンを見つめていた悠希がふと呟いた。

「人は死んだら、どうなるのかな?」

「どうなんだろうな。まぁ、遅かれ早かれ骨にはなるな」

「うん……」

 その後、結局悠希はテキストエディタに文字を打ち込む事も無くパソコンの電源を落とした。

 

†next?†