第七章 組み上がる物

 カナメと、美夏さんとも偶に会う事が普通になってきたある日、カナメからこんな事を言われた。

「実は僕、だいぶ前からホームページ作ってるんだよね。

ずっと勤には言ってなかったなって思ったんだけど、興味ある?」

「どんなホームページなんだ?それにもよる」

「二次創作っていう、あの、所謂パロディのお話書いて載せてるんだ」

 パロディか。カナメは高校時代にオリジナルの小説を書いていたけれど、今はパロディの方が書いてて楽しいのかな?

カナメがどんな物に興味を持っているかに興味が湧き、 俺はカナメの作っているホームページのアドレスをメールで送って貰った。

 

 送って貰ったアドレスにアクセスすると、トップページにカナメが好きだと言っていたゲームのタイトルと、 販売元とは関係ありませんの文言。

聞いた話だといろいろごちゃっと詰め込んでカオスになってるって事だったけど、どんだけカオスなのかね。

 実は、俺も偶にアニメを見たりライトノベルを読んだりするので、有名どころだったらいくらかわかる。

カナメの話を聞く限りだと、色々な他作品のネタをちょくちょく挟んでいるとの事なので、 俺の知ってる作品のネタが出たら面白いかななんて思ったり。

 結構な数掲載されている小説の中から、適当に一つ選んでタイトルをクリックする。

クリックすればアップされている小説にアクセス出来る訳なのだが、小説を読み込んだ瞬間、 パソコンのディスプレイから何かが吹き出した気がした。

それをまともに食らった俺の頭の中で、走馬燈のように見覚えの無い景色が浮かんでは消えていく。

 何だったんだ、今のは?

一瞬の事ではあったけれど、その不思議な感覚に暫し呆然としたのだった。

 

 それから数時間。カナメの書いている小説は結構面白く、 尚且つ俺も知っているネタが盛り込まれていたりするので楽しく読み進められた。

でも、この物量は一日で読むのは無理だわ。

そう思って、俺は一旦カナメのホームページを閉じた。

 

 パソコンでSNSを眺めていると、こんなニュースがあった。

どこぞかの出版社が経営破綻して倒産したというニュースだ。

 それが少し心に引っかかった。

何故なら、カナメは最近出版社が募集を掛けている小説大賞に応募したりしているからだ。

 カナメが応募した出版社で無ければ良いなと思いつつ、そのまま関連のニュースを辿っていく。

すると今度はこんな記事が。

近頃潰れていく出版社の数が急増しているというのだ。

 う~ん、これは何なんだろう、もしかして一時期雨後の竹の子的に小さな出版社が乱立して、 それが持たなくなっているって言う可能性はあるよな。

本当に出版社が乱立していたのかどうか、俺にはわからないけれど。

 出版社と言えば、最近神道系の書籍に力を入れてるところが有ったな。

俺は仏教徒だけど、日本国内で除霊している分には神道の事も知っておくに超した事は無い。

今度本屋に行って探してみようかな。

本屋に行くなら、ネットでレビューとか探してある程度目星付けた方が良いかもしれない。

そう思った俺は、ネット通販サイトのページを開いたのだった。

 

 それから数日後、本屋街で神道系の本を探していると、風変わりな客を見掛けた。

伸ばした黒髪をポニーテールにし、着物に袴姿の男性。

色々な本を一冊一冊手に取っては、丁寧に内容を確認している。

小説だけで無く、なにやら可愛らしい女の子が表紙に描かれている、女の子向けとおぼしき雑誌も持っている。

 そう言えばカナメがあんなの好きだよなと思いつつ、ついついその男性客を観察してしまっていたのだが、 ふと彼の左手に目がいった。

中指に光の指輪が填まっているのだ。

 彼が手に取った本の内容を確認する度に揺らめく光に見入っていたら、今度は冷たい視線を感じた。

感覚だけで視線の元を辿る。

辿ってみると、その視線は袴姿の彼の背後から来ていた。

 他の客の姿は無いし、もしかしてと思い霊視してみると、そこに見覚えの有る霊が立っていた。

先日丁重にお引き取り願った、西洋風の霊だ。

もしかして前にカナメが言ってた、亡くなった元同僚の事を祟り殺したのはあの霊かもしれない。

その辺の事を念を送って訊ねてみると、そうだという。

ああ、まぁ、言い聞かせると言っておきながら言い聞かせられなかった俺にも非はあるので、 その節は申し訳ありませんでした。と念を送る。

するとこう返ってきた。

「お前が謝る必要は無い。

だが、今後俺の宿主に害をなす者が現れた場合、お前達の制止など聞かないからな」

 謝る必要は無いと言いながらもお怒りのご様子。

俺が申し訳ない、申し訳ない、と冷や汗をかいていたら、霊の宿主が、 見ている本の中で面白い物を見つけたのか微かに微笑んだ。

 それを見た霊が、表情を緩ませ背後から抱きつく。

本当にスキンシップが好きなお方ですね。

 

 無事に目的の書籍を購入する事が出来た俺は、家に帰るなりカナメのホームページを見ていた。

そう言えばリンク集って見てないけど、どんな人と繋がってるんだろう。

そう思い、リンク集へと飛ぶ。

するとやはり、ゲーム系のサイトへのリンクが多いのだが、オリジナル小説サイトへのリンクも張られていた。

 オリジナル小説か。カナメがリンク張るくらいだから面白い物を書いてるんだろうな。

そう思い、深く考えずにリンク先へと飛ぶ。

そこの目次を見て、結構長めのシリーズ物が多いなと思ったのだがそれもその筈。

出版社が募集を掛けていた小説大賞に応募したは良い物の、書籍刊行されなかった物だと書かれている。

 応募するのって結構量書かないといけないんだな、カナメは短編の方が得意って言ってたけど、 あいつこんなに書けるのかな。

何故かカナメの事を考えながら小説の本文にアクセスする。

すると、いつかのようにパソコンのディスプレイから何かが吹き出す感じがした。

これ、カナメのホームページを開いた時にも有ったなと思いながら、 頭の中で再生される見た事の無い景色に身をゆだねる。

それは本当につかの間の事だったけれども、この現象に俺が疑問を持つには十分だった。

 

 少しリンク先の小説を読んだ後、パソコンの電源を落とし買ってきた本を読んでいた。

この本はかなり詳細に神道……正確には日本国の八百万の神について書かれていて、 神職の方どころか本当に神様が編集しているのでは無いかと思う程だ。

 ちらりと改めて出版社名を確認する。

『紙の守出版』か、出版社名からも何となく神道っぽさを感じるな。

この本、読み終わったらカナメに貸してみようかな。あいつこう言う系統の本が好きだった気がするし。

それに、読めば読んだできっと小説のネタにするだろう。

後で電話して、興味あるかどうか訊いてみよう。

 

 数日かけて買い込んだ本を読み終え、カナメに電話をかける。

神道の本に興味があるかどうかを聞くためだったのだが、結局それ以外に事についても盛り上がってしまった。

「お前のホームページからリンク張ってるオリジナル小説のページって、何処で見つけてきたん?」

「ああ、あのサイト?

あそこは最近友達になった人が管理してるんだよ。読んでみて面白かったからリンク張らせて貰ったんだ」

「へー、どういう知り合い?ネットで知り合ったのか?」

「ううん、同じ病院に通ってる人だよ」

 病院に通っている、と言う言葉と事実が少し心に刺さったが、 ネット経由で騙されているとかそう言う訳ではなさそうで安心した。

 カナメは、その内その友達も紹介するよ。と言っているけれど、 紹介されたらなんか俺、その友達にヤキモチ焼きそうだなぁ。

 

†next?†