箱庭創りの主

皆さん初めまして、私は夜杜 美言と申します。

実はと言いますと私は神様の端くれで、新しい世界を創る人々を見守る仕事をしています。

新しい世界を創るというのはどういうことかと言いますと、何も難しい事はございません。 ただ物語を作り、綴れば良いのです。

なのでこの世界ではあちらこちらで、新しい世界が産声を上げています。

けれども、創られたばかりの世界というのは非常に弱い物で、 ある程度まで育つ前に手入れを怠ってしまうと、すぐさま枯れ果てて消えてしまうのです。

今日もまた、世界が生まれては消えていくこの世界。

その中で、私は上司から言いつかって、特に物語を作る力の強い二人の人物の様子を、時偶見守っていました。

 

その二人の近況報告をしようと上司の元に行くと、部屋の中から騒ぎ声が聞こえてきました。

ああ、またかぁ。と思いながら声を掛けて部屋の中に入ると、 涼しい顔をした女性に向かって顔を真っ赤にしながら騒ぎ立てる男性の姿が。

男性の方が私の上司なのですが、女性の方は偶にやってきては上司にちょっかいを出す、異世界の神様です。

「本当に大丈夫なんですか?行く末が不安ですねぇ」

「うっさい黙れ!お前の所と違ってこっちの世界はシステムが雑なんだよ!

雑なシステムの世界を纏めなきゃいかん俺の気持ちわかる?」

「それならあなたは、ここよりも数段複雑なシステムの世界を纏めなきゃいけない私の気持ち、解ります?」

「ぎぎぎ……」

上司が女性に言いくるめられたところで、私は上司に声を掛けました。

「語主様。例の二人の報告なのですが……」

その声に気付いた女性が、私の上司、語主様に声を掛けます。

「ほら、美言さんが用事有るみたいですよ」

「お、おう。よし美言、月夜主の事は気にせず報告してくれ」

「いや、言われなくてもそろそろ気にしませんけどね?」

語主様に言われるまま、私は女性……月夜主様のことを気にせずに報告を済ませました。

「……という訳で、また一社、出版社が潰れました」

「なんなの……なんなのあいつ……呪われてんの……?」

「そうですね、見た感じ西洋系の何かの影は見えます。

でも、西洋系だと私も語主様も守備範囲外なので何も出来ませんよね?」

「くっそ、今度西洋系の神様陣に電突かけるわ」

私が見守っている二人の箱庭創りの主……まぁ、わかりやすく言えば物書きとか小説家という表現になるのですが、 そのうちの片方には是非ともメジャーデビューして欲しいというのが、私と語主様の見解です。

何故ならその人は、骨組みのしっかりした世界、つまりは物語を作るのですが、 世界が自己構築が出来るまで手を掛けるという事があまりなく、非常に勿体ない思いをしている物で。

その一方で、もう片方には暫く高等遊民でいて頂こうという話になっています。

そちらの人は、自分で一から世界を創るという事は難しいのですが、他の世界に乗っかる、 つまりは二次創作が非常に得意で、 いろいろな世界を巻き込みながら一つの世界にまとめ、育て上げるという能力に優れているのです。

その二人の特性を生かして、片方にはメジャーデビューして一般的になってもらって、 もう片方にその世界を巻き込んで育て上げてもらおう。と言う魂胆です。

早速手持ちのスマートフォンで電話帳検索をしている語主様が、ふと月夜主様の方を見て言いました。

「そう言えば月夜主、お前、この件解決出来そう?」

語主様は、私が先ほど報告した西洋系の影を月夜主様に何とかしてもらおうと考えた様ですが、答えはこうです。

「言っておきますけど、この世界はまるっきり私の管轄外ですからね?」

「せやな」

溜息をついて再びスマートフォンをいじり始める語主様に、私は声を掛けます。

「それでは語主様。私はそろそろ仕事に戻りますね」

「おうよ、お疲れ。そうそう、面倒かもしれないけど、例の西洋系の影ってやつ、詳細見てくれると助かる。

その方が話し通しやすいかもしれん」

「はい、解りました」

それから、月夜主様にも軽く挨拶をして、私はその部屋を後にしたのでした。

 

†the end†