第七章 花崗岩

 暫く歩くと、少し宙に浮いている結晶の種類が減った様に思えた。

色とりどりの、三角錐や六角錐、それに三角柱がほのかに光り、洋燈の光をぬらりと返す。

「おじさん、ここは何なんですか?」

 六角錐を手に取り尋ねる少年に、おじさんも三角錐や三角柱を集めながら答える。

「ここは花崗岩。

先程居た、ペグマタイトの近所だよ」

 聞いたことの有る岩石の中に居ると知った少年は、色とりどりの六角錐を握りしめたまま周囲を見渡す。

それから、六角錐をおじさんに見せながら尋ねた。

「おじさん、これってルビーとカラーサファイアですよね?

花崗岩の中に有るって言うことは、デパートの壁の中にもこんな宝石が有るかもしれないって言うことですか?」

 少年の言葉におじさんは、ふむ。と言って答える。

「そうだねぇ。もしかしたら、有るのかもしれない。

けれど、君はこの宝石が高価なのを知っているだろう?

綺麗な石は、なかなか見つからない。だから、もし見つかったら建材にされる前に宝石を掘り出されてしまうよ」

「そうなんですか」

 六角錐を見つめる少年に、おじさんが手に持った他の石も少年に渡し、見せる。

「こっちの石は、興味が無いかな?」

 おじさんが見せたのは、三角錐の褐色をした結晶と、ピンクと緑のグラデーションになっている三角柱の結晶、 それから、黒い三角柱の結晶。

 それを見た少年は、あ。と言う顔をして答える。

「黒っぽいの二つはわからないんですけど、このピンクと緑のはわかります。

トルマリンですよね?」

「その通り。

他の二つも気になるかい?」

 にっ。と笑うおじさんの言葉に、少年は期待の眼差しを向け頷く。すると、 おじさんは少年の持っている六角錐も含めて教えてくれるという。

 君が持っているルビーやサファイア、それは皆コランダムという鉱石だよ鉄やチタン、 クロムの入り方で色が変わるんだ。

 この三角錐の褐色をした石は、鉄カンラン石。苦土カンラン石…… ペリドットと言った方がわかりやすいかな?  それの仲間だよ。

 それから、この三角柱の石二つ。君がトルマリンと言ったこれなのだけれどね、どちらもトルマリンだよ。鉱石名では、 色の付いている方がリチア電気石、黒い方が鉄電気石と言うんだ。

 おじさんの話を興味深そうに聞いた少年が、疑問に思ったことを尋ねる。

リチア電気石と鉄電気石はどう違うのか。そして何故『電気』石なのか。そんな事だ。

おじさんはまた答える。

 リチア電気石にはリチウムという成分が、鉄電気石には鉄が含まれているんだ。もう少し成分的に違う所は有るけれど、 これが名前の由来だろうね。あと、何で『電気』石なのかというとね、熱を加えると静電気を出すんだ。だからだよ。 おじさんはそう説明した。

 それを聞いた少年が、ぽつりと呟く。

「友達が居る石って、結構有るんですね」

 するとおじさんは、少年の頭を撫でて言う。

「そうだね。友達が居る石はいっぱい有る。

友達が居るなんて羨ましいよ。私には、友達が居ないから」

 それから、少年はなんだか気まずそうな顔をした後、両手に持っていた結晶を宙に返す。

「おじさんの友達になったら、もっと石のこと教えてくれますか?」

 頼りなさげな少年の言葉に、おじさんはくすりと笑って答える。

「君が私の友達になってくれたら、嬉しいなぁ。

友達になって、くれるのかい?」

「あの、僕で良ければ……」

 黄色い外套を掴む少年の手を取り、おじさんは歩みを進める。

「じゃあ、今日から私と君は友達だね。

まだまだ沢山、石の事を教えてあげるよ」

 嬉しそうに洋燈を掲げ、二人は奥へ奥へと進んで行った。

 

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