第六章 ペグマタイト

 次第に、周りに浮かぶ鉱物の種類が増えてきた。

その様は、夜空の様で居て、宝石箱の様だった。

ここはペグマタイトだね。と言うおじさんの後について歩く少年。

 ふと、おじさんが足を止めた。

ペグマタイトでは色々な石が出来るんだよと、おじさんは少年に好きな石を持ってくる様言う。

言われるままに、少年は薄桃色の結晶と、白い結晶、金色の針の様な物を持って来た。

「おや、随分と地味な物を持って来たね」

 もっときらきらしたものを持ってくると思っていたのか、おじさんは少し驚いた様子。

少年は、この石は見たことが無いから名前を教えて欲しい。とおじさんに言う。

おじさんは順を追って、一つずつ少年に教えていく。

「この薄桃色の石は、正長石。

花崗岩って、知ってるかな? あれに良く混じっているんだ」

「花崗岩って、よくおっきいデパートとかの壁になってるやつですか?」

「そうだね、大理石として建材にもなっている。花崗岩に混じってる桃色の石は、大体これだよ」

 全く知らない物だと思った石が、思いの外身近に有ると知った少年は、驚いた様な、嬉しそうな顔をする。

 それから、話の続きをねだる少年に、おじさんは次の石の説明をする。

「この白い、柱状の結晶は曹長石。

さっきの正長石の仲間だよ」

 それを聞いて、少年は不思議そうな顔をする。

「正長石とこれって、どこが違うんですか?」

 おじさんは少し困った様な顔をして答える。

「ナトリウムが主成分の長石なのだけれど、そうだなぁ、もっとわかりやすい違いは……

ああ、正長石は薄桃色をして居るけれど、曹長石は淡い青色をした物が有るんだ。

正長石は白や灰色にはなるけれど、青色にはならないんだ」

 その答えに、少年は少しふくれっ面をして、正長石と曹長石を手放す。

「なんか、難しい石ですね」

 そんな少年を宥める様に、おじさんは頭を撫でながら説明を付け加える。

「君が知ってそうな石だと、そうだね、ムーンストーンって有るだろう?

あれの仲間だよ」

 すると、少年がおじさんを見上げて、少しだけ悲しそうな顔をする。

「お友達がいっぱい居る石なんですか?」

「そうだね、正長石や曹長石には、いっぱい友達が居る。

さぁ、次の石の名前だね」

 おじさんは、少年が寂しそうな顔をしているのに気付いていないのか、次の石の説明を始めた。

「この金色の針みたいな石は、金紅石って言うんだ。君にはルチルって言った方がわかりやすいかな?

チタンが取れる、大事な石だよ」

 金紅石。と言われた時は初めて見る石かと思った少年だったが、ルチルと言われて知っている石だと気付く。

「ルチルって、知ってます。

水晶とかによく入ってる金針ですよね?」

 チタンが何であるかはわからなかったが、その事をすっかり忘れて少年は、 父の店にルチル入りの水晶が置いてあることがあると、おじさんに話す。

やはり、ルチルという名前では知っていたね。と言うおじさんの言葉を聞きながら、少年はルチルを手放す。

 ふわりと元の場所に戻った鉱石を見送った後、今度はおじさんが何種類か石を持ってきた。

赤く丸い石と、透き通った薄桃色の石、四角く緑色の中に紫の入った石と、黄色く透き通った石、 それに緑色の柱状の石だ。

「もしかして、君がこれを持ってこなかったのは、知ってる石だったからかな?」

 おじさんの言葉に、少年は頷く。

おじさんは、少年にそれぞれの石の名前を尋ねる。

少年は淀みなく答える。

赤く丸い石は、アルマンディンガーネット。

透き通った桃色の石はジルコン。

四角く緑色の中に紫の入った石はフローライト。

黄色く透き通った石はトパーズ。

緑色の柱状の石はエメラルド。

これが少年の回答。

 それを聞いたおじさんは、賞賛の声を上げる。素晴らしい、素晴らしい、全て正解だ。少年の顔を洋燈が照らすと、 照れているのかほのかに赤い。

 紅潮した頬もそのままに、少年はおじさんに尋ねる。

この石にも他の名前は有るのですか。と。

おじさんは答える。

「鉱石名でも、ジルコンはジルコン、トパーズは少し変わって、トパズになる。他は少し難しくなるかな。

アルマンディンガーネットは、鉄礬ザクロ石。

フローライトは、蛍石。

エメラルドは、緑柱石。

こんな感じだよ」

 初めて聴く名前に、少年はどうしてそんな名前が付いているのか、それをおじさんに尋ねる。おじさんは、 一つずつ丁寧に答える。

 まず、鉄礬ザクロ石。これはザクロ石に鉄とアルミニウムが混じっているから、 こう言う名前になった。『礬』というのは、アルミニウムのことである。

 次に、蛍石。これは熱を加えると光るからだよ。見てご覧、こうやって洋燈の火にくべると光るだろう。

 最後に、緑柱石。これは緑色の柱だから、緑柱石なのだろうね。

 おじさんはそう説明した。

それから、君に是非見て欲しいのだけれど。と言って、おじさんは持っていた結晶を宙に放った後、好き通った淡青色の、 柱状の結晶を二つ、少年の目の前に差し出す。

「これの違いがわかるかな?」

 まるで少年を試す様な、その口ぶりに少年が怯む。その様子を見ておじさんは、 間違っても怒りも笑いもしないから。と言い聞かせ、また少年に違いを尋ねる。

「わからないです。

この二つは違う石なんですか?」

 正直な少年の言葉に、おじさんは二つの石を少年に渡し、よく見る様に促す。

少年が良く結晶を見てみると、片方は縦に、片方は横に筋が入っていた。

「どちらも水色だけれどね、縦に筋が入っている方が緑柱石の水色のやつで、 横に筋が入っているのがトパズの水色のやつだよ」

 その説明を聴いて、少年の顔に感動が浮かぶ。

「これ、アクアマリンとブルートパーズなんですか!

結晶の形だとこんな違いがあるんだぁ……」

「おや、青い緑柱石がアクアマリンだというのは知っていたのかい?」

「アクアマリンは、エメラルドの色違いだってお父さんが言ってたんです」

「そうなのか。緑柱石は他にも、黄色やピンク、赤もあるんだよ」

 宝石として扱われ、カットされた物は見慣れている様だけれども、 結晶の形で見たのは初めてな様子の少年。彼の手から青い緑柱石とトパズが離れ、二人はまた洋燈の灯と、 宙に浮く鉱石のほのか光と共に先へと進んで行った。

 

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