後日談 思い出の味

 修道院に帰ってきてしばらく経ったころ、礼拝の後にウィスタリアが泣いているのをルカが見つけた。
 心配した様子のルカがウィスタリアに問いかける。
「どうしたのですか?
なにか悲しいことでもありましたか?」
 その問いに、ウィスタリアは涙を拭いながら答える。
「コンの作ったごはんが食べたいです~……」
 それを聞いて、ルカもコンが作ってくれた色々な料理を思い出す。ふわふわで甘みのあるパン、カブをじっくりと煮詰めた清涼なスープ、豆の汁を苦瓜と塩で固めた旨味ある豆腐、サクサクの生地で薔薇の花のジャムを包んだ甘いパイ、ライスを多めの水でじっくり煮こんだやさしい味のスープ、そんなものが一気に頭の中を駆け巡っていった。
 一呼吸置いてルカが言う。
「私も食べたい……」
 それから、ふたり同時にお腹が鳴った。
 もう一度、チャイナに行こうと思えば行ける気はするけれども、それが許される身の上ではない。だからせめて、せめて。
「調理担当の方に相談しましょうか」
「うん」
 ルカの提案でウィスタリアはなんとか納得した様だ。

 あの一年は、なんて輝かしい日々だったのだろう。

 

†fin.†