セイタが崖の底へと落ちていくのを見つめながら、彼は泣いていた。
他の兵士は言う。そんなに泣く位だったら引き留めれば良かったのにと。
彼は泣いた。街へと帰る道中、暫くの間。
それでも後悔はしていなかった。
いつの事だったか、まだ友人も出来ていない頃、兵舎の食堂で初めて声を掛けてくれたのはセイタだった。
仲良くなりたいと思いはしたが、所属自体が違うので稀にしか会う事が出来なかった。
街に帰り着き、いつも通り兵舎で食事を摂る。
彼は食堂の係員に頼み、スプーンを一本、余分に渡して貰った。
一本は手元に、もう一本は向かい側に置き、料理に手を付ける前に呟いた。
「お前の次の生が善く有る様に、オレは応援してるからな」
それから、ここは猫神様の管轄では有るが、冥界を統べる犬神様にそっと祈りを捧げたのだった。
†next?†