後日談二 深淵の底

 深淵の奥深く。そこでセイタはたゆたっていた。

深淵の底は暖かく、けれども絶望を孕んでいた。

 ここから出ないと、もう二度と家族にもミエにも会えない。そう思いながらも、何をする事も出来なかった。

 あれからどれだけ経っただろうか。

深淵の底から出る事を願い続ける日々。

その中で、闇の中から何者かがセイタに話しかけた。

「ここに飲まれていても尚、外に出たいと願い続けている人間はお前が初めてだ。

面白い。特別にお前を深淵の闇から解放してやろう」

 そう言った何者かは、セイタの瞳を凝視し、貌の無い顔から楽しげな笑い声を漏らす。

「深淵から出る君に、特別な贈り物をしてあげよう。

贈り物を使って、精々私を楽しませておくれ」

 それから、セイタの右目に黒い針の様な物を刺した。

すると、セイタに一欠片の混沌が混じった。

何が起こっているのか理解出来ていないセイタを抱え、何者かは深い深い深淵から地上を目指す。

 深淵から這い出した何者かはセイタを地上に置き、そのまま深淵へと帰る。

置き去りにされたセイタが暫くぼんやりとその場に座っていると、暫くして犬神様の使いが来て、冥府へと案内された。

 

†fin.†