第九章 ブルーレース

 いつも通りステラがバイト先で石を磨いていると、突然声を掛けられた。

「あれ、ステラじゃ無い。

こんな所で何やってるの?」

 何かと思ったステラが振り向くと、そこには知り合いの姿が。

「ローラもこんな所で何してるの?

……あ、もしかして本屋さん?」

「そうなの。

そろそろ本を使い切って来ちゃって、新しいの買わないといけなくてさ」

 本を使い切るというのはどういうことか。サフォーとルーベンスは解らないと言った顔をしているが、 ステラは納得している様子。

 どういうことなのかというと、ステラの知り合いである篠崎ローラは、ステラや匠と同様に、魔法少女なのだ。

彼女は魔法を使う時に、本のページを使う。

その時に、一ページずつ毟り取って使うので、本を消費してしまうと言う。

 そう言う訳で、たまたまこの駅ビルに入っている本屋に寄ったついでに、 近くにあるステラの勤める店を覗いてみたようだ。

「パワーストーンのお店があるのは知ってたけど、まさかステラがバイトしてたとはねぇ」

「私もローラがここの本屋に来るとは思わなかったよ。

神保町とかで古書店見てるのかと思ってた」

「いつもは古書店なんだけど、今日はたまたまここに来る用事があって、ついでにね」

 雑談をしながら、ローラの視線がステラの両肩を行ったり来たりしている。

何とも言いがたそうな顔をして、ローラがステラに訊ねた。

「ねぇ、その肩に乗せてるカエル、何?」

「あ、案の定ローラにも見えるんだ」

同じ魔法少女仲間だから見えるだろうと思っていたステラだが、 勿論見ただけでこの摩訶不思議カエルを理解して貰えるとは思っていない。

なので、ざっくりとローラにサフォーとルーベンスの紹介と説明をした。

「う……う~ん、にわかには信じがたい内容だけど、私にそんな事を言われるのはこの二匹も心外よね」

「だろうね」

 難しい顔をするローラだが、ふと、何かを思いついたようにステラに言う。

「そう言えば、このお店ってパワーストーンのブレスレット作ってくれるのよね?」

「まぁ、ちゃんとお代を払ってくれれば作るよ?」

 ステラの言葉に、ローラはステラの腕を掴んで必死そうに言う。

「ねぇ、恋愛運をアップするブレスレット作ってよ!」

「OK。そこのカウンターに座って。

石を選んでもらうから」

 恋愛運ってそんなに重要な物なのかなと思いながら、ステラはカウンターの中に入ってローラに色々と質問をする。

まず、恋愛系は基本的にピンクになるけれどそれでいいのか。それから、予算を聞く。

「ピンク……ピンク…………

なんかあんまりピンクだと恋愛に必死って言う感じになっちゃうから、もっと他の色の石と組み合わせてとか出来ない?」

「難しい事言うね。

え~っと確か……」

 ローラの注文を聞いて、ステラは頭の中で今までに聞いた店長のアドバイスを思い出す。

そしてピンときた。

「どうしてもピンクは入るけど、ブルーレースって言う水色の石を持ってくれば、 そんながっついてるようには見えないんじゃ無いかね?」

 その案にローラは頷く。

納得したようなので、ステラはブルーレースを使用する恋愛運ブレスレットの材料を取り出す。

「まずはブルーレースね。それと、補助でこの黄色いアラゴナイトって言うのも入れるよ。

それでピンク系の石なんだけど、インカローズとローズクォーツどっちがいい?」

「どう違うの?」

「インカローズの方が効果は高いけど値が張る。

ローズクォーツは安い。

まぁ、値段どうこうよりも相性だから、ピンときた方を使った方がいいよ」

 そう言ってステラが取り出したのは、鮮やかな薔薇色のインカローズと、優しい桃色をしたローズクォーツ。

ローラはその両方を凝視して、悩む。

「どうしよう、効果は欲しいけど余り主張したくない……」

「まぁ、じっくり悩め」

 ローラが悩んでいると、ステラの肩からルーベンスがスチャッと降りたってこう言った。

「御利益ばかりを求めちゃダメケコ。

一緒に過ごせるパートナーとして選ぶと良いケコよ。

大事に大事に出来る石の方が、気分がハッピーになるケコ」

 その言葉に、ローラがはっとした顔になる。

「そうよね、大事に出来るお守りの方が、持ってて嬉しいものね」

 そしてローラは決断する。

「インカローズにする。

この色の方がブルーレース?と合わせるのに良さそうな色してるもん」

「わかった、インカローズの方ね。

じゃあ、ブルーレース、アラゴナイト、インカローズをそれぞれどの珠使いたいか選んで」

 タオルの上に並べられたそれぞれの石を、一個ずつ丁寧に選んでいくローラ。

手に取る度に凝視するその姿に、ああこれはまた時間が掛かるだろうなと、ステラは思ったのだった。

 

 ひとしきり石を選び終わった所で、ステラは石を順番にブレスレット用のゴムに通していき、 たまにローラの手首に巻いてサイズを見ている。

そして時折、ブルーレースを嘗めようとするサフォーの事を押さえつけながらブレスレットは完成した。

「はい、出来たよ」

「わ~、かわいい!

しかもサイズもぴったりだ!」

「そりゃサイズは合わせながらやったからね。

まぁ、気に入って貰えたようで良かったよ」

 上機嫌のローラをレジへと誘導し、会計をする。

少し大きな出費とはなったローラだが、満足そうだ。

また来るねと言い残し、店から出て行くローラを見つめるステラ。

心の中では、今日はなかなか売り上げが上々で良かったなどと思っているのだった。

 

 それから数日後、ステラが店番をしていると、上機嫌なローラがやってきた。

「ねぇステラ、聞いてよ!」

「ん?どした?」

「私ね、彼氏が出来たの!

あのブレスレットのおかげだよ!」

 ローラの言葉にステラは思わず表情が固まる。

まさかそこまで早急に効果があるとは思っていなかったし、そもそも効果があったというのが驚きだ。

「う、うん。

でも、それ本当にブレスレットの効果かなぁ?」

 自分で勧めておきながら、思わず疑問がるステラに、ローラがうっとりした表情で語る。

「これのおかげだよぉ。

これつけてたらね、今まで気になってた彼が、『この石綺麗だね、篠崎さんも石が好きなの?』って話しかけられたの。

その時は正直に、石については詳しくないけど、このブルーレースって言う石はかわいくて好きって言ったんだけど、 そしたら彼もブルーレースが好きだったみたいで意気投合しちゃった!」

「まさかのブルーレース」

「彼もブルーレースのストラップとか欲しいって言ってたから、そのうち彼氏と一緒に来ようかなって。

その時はまたよろしくね」

「うん。よろしくされるよまいどあり~」

 それだけ言い残してローラが去った後、サフォーがステラにこう言った。

「なんか最近、ご主人様結構売り上げ上げてるから、時給上がっても良さそうケコよね」

「まぁ、時給ノルマ云々抜きにしても、素直にあそこまで喜ばれると悪い気はしないんだけどね。

でも、時給上がって欲しいな~」

 最後の方は独り言になっているその言葉を呟きながら、 ステラは首から下げているブルーアンバーのネックレスを揺らしたのだった。

 

†next?†