第二十章 アクアマリン

 それから数ヶ月、ステラ達魔法少女は無事に高校を卒業し、各々の進路に進んだ。

魔法少女も同時に卒業した訳なのだが、今でも四人は一緒につるんで遊ぶ事がある。

「も~、うちの職場に集まるのは良いけど、みんな買い物してってよね」

 この日は元魔法少女達がこぞってステラのバイト先へとやってきていた。

「ちゃんと買い物するよ~。

今日はね、お兄ちゃんが小説を書く時に力を貸してくれる石とか無いかなって思って来たの」

「ああ、小説ってなると芸術分野だからオパールだね。

オパールは珠売りしてないから、そこのぶら下がってるペンダント類の中から探して」

 相変わらずのブラコンぶりを発揮する匠に、ステラは棚を指さして答える。

「で、ローラは?また恋愛運かい?」

「え?なんでわかったの?

やっぱりこう言うお店で働いてると直感的な物が鋭くなるのかなぁ?」

「いや、あんたの場合わからいでかって感じなんだけど?」

 なんだかんだで恋愛からは離れられないローラに要望を聞く。

今回は、今付き合っている彼氏と円満に過ごせる様なお守りが欲しいと言う。

「それならロードナイトだね。

そんな高い石じゃ無いから、ブレスレット一連丸々使っても手が出る価格帯だと思うよ」

 ざっくりと説明をして、ローラに石を選ばせ、ブレスレットを作る。

出来上がっているブレスレットを見てローラが喜んでいると、 匠がオパールのネックレスを数個持ってきてステラに訊ねた。

「ねぇ、どれが良いやつだと思う?」

「オパールはどれが良いって一概には言えないんだよね。

私が選ぶよりも、匠が悠希さんの事を考えながら選んだ方が多分効果あるよ」

「そっか。それじゃあ……

う~ん、どれが良いかなぁ」

 改めて棚の前に戻ってオパールを選ぶ匠を尻目に、今度は睡に訊ねる。

「睡はなんかお目当ての石って有るの?」

「私?私はそうだなぁ、アクアマリンって石が欲しいんだけど、有る?」

「アクアマリン?アクアマリンな……」

 このところ石の種類も増えた棚をステラが見渡す。

そして見つけたのは、乳白色が買った水色の石。

「ああ、有った有った。あんまランクは高くないけど、値段もそれなりであるよ。

ただ、それなりっても一連丸々アクアマリンは経済的にきついかなぁ」

「そうなの?

それじゃあ他の安い石と合わせようかな?」

 ステラの言葉に、棚の上を睡の視線が行き来する。

そして目を留めたのは若干だけ透明感のある白い石。

「ねぇ、この石と合わせたいんだけど、これはお値段的にどうなの?」

「ホワイトオニキス?

ああ、これはお手軽価格だし、アクアマリンと合わせると確かに可愛いね。

良いんじゃない?」

「じゃあこれでお願い」

「あいよ」

 睡にも石を選んでもらい、無事にブレスレットは完成する。

和気藹々とした雰囲気もつかの間、 会計が終わると客として来たステラ以外の三人が何時までもその場に居る訳には行かない。

会計を済ませた三人は、軽く挨拶をして店を去って行ったのだった。

 

 バイトが終わり、空きっ腹に何か入れようと近くのファーストフード店に入るステラ。

注文をして、品物を持って二階席へと上がる。

すると、二階の奥の席で睡が手を振っていた。

「ステラ、お疲れちゃん」

「いやはや、待たせちゃってごめんねー」

 特に驚く様子も無く、ステラは睡の向かいに座る。

暫く、睡がもう氷も溶けきってしまった紙コップに刺さったストローを吸い、 ステラがハンバーガーとポテトを食べながら談笑する。

 ふと、ステラが睡に訊ねた。

「しかし、またなんで急にアクアマリンなんて欲しがったのさ。

もっとこう、モチベーション上げる系ので行くかと思ったし、意味の方から石を検索するかと思ってた」

 その言葉に睡はいたずらっぽく笑って答える。

「えへへ、実はアクアマリンの意味はあらかじめ調べて行ったんだよ」

「え?そうなん?」

 まさか睡がそんな事をしていたとは知らなかったステラがアクアマリンの意味を訊ねると、睡は苦笑いする。

「も~、未だに石の意味を把握出来てないの?」

「勤続四年目になりますが半分以上覚えてませんスイマセン」

 宝石鑑定の専門学校に進み、ますます宝石畑の色が強くなったステラ。

どうやら未だに石の意味に関しては表や店長の言葉に頼っている様だ。

そんなステラに、睡がにやりと笑ってこう言った。

「アクアマリンは、暗闇の中でも照らしてくれるんだよ。

茨道を行く私たちにぴったりじゃ無い?」

 その言葉にステラは顔を真っ赤にした後、アイスコーヒーをストローで啜って落ち着きを取り戻す。

それから、睡の手を取り、口づけをしてからこう言った。

「茨道に突っ込んだのは、そっちが先でしょ?お姫様」

「ま、まぁ、うん……」

 その仕草に顔を真っ赤にした睡と、 してやったりという顔をするステラを見てサフォーとルーベンスはやれやれと言った様子だ。

「全くも~。ご主人様も睡様も、ドライなのかラヴラヴなのかはっきりしてよ~」

 呆れた様な口調でそう言うサフォーに、ステラがポテトを噛みしめながら言う。

「あんま人前でベタベタしたくないってのはあるんだよね」

 睡もそれに続ける。

「街中でベタベタしてると物理的に邪魔だしね」

 二人の物言いに、ルーベンスは溜息をつく。

「なんかドライであんまり恋人同士って感じしないケコねぇ。

まぁ、丁度良い距離って有るみたいだし、良いんじゃ無い?」

 相変わらずご主人様とその仲間達の事を見守っているサフォーとルーベンス。

その二匹の事を、ステラと睡は優しく撫でたのだった。

 

†fin.†