ある日の昼休み時、匠がステラにこう言った。
「そう言えば、ローラから聞いたんだけど、睡がお守りブレスレット欲しいらしいんだよね。
睡はステラがパワーストーンのお店でバイトしてるの知らなかったらしくて、今度行ってみたいって言ってるんだってさ」
「一向に構わんけど、私が居る時に来て買い物してってよ」
ステラの言葉にルーベンスがプクーッとふくれる様を見て、匠が笑いながら言う。
「まぁまぁ、ルーベンスもそんなにふくれないで。
で、ローラもなんか欲しいみたいだし、私も欲しいの有るかもしれないから、今度こぞって行ってみようと思うんだけど、 お店のキャパシティ的に大丈夫?」
「うむ……三人同時か。
まぁ、大騒ぎしたりしなきゃ大丈夫だよ」
ステラの返事に、匠は早速携帯電話を取りだしてメールを打ち始める。
ステラから何時居るのかを訊きつつ、メールで日程調整を始めた。
それから数日、どうやら折り合いが付かなかったらしく、睡が一人でステラのバイト先へとやってきた。
「いらっしゃい。良くここまで迷わずにこれたね」
「ネットで調べれば解るよ。
それにしても綺麗な石がいっぱい有るね」
嬉しそうに店内を見る睡の姿に、ステラも悪い気はしない。
暫くしげしげと店内を見ていた睡が、ピンク色の石を手にとってぽつりと呟く。
「恋愛運かぁ……」
その様子を見て取ったステラが睡に声を掛ける。
「もしかして、作って欲しいお守りブレスレットって、恋愛系?」
その言葉に一瞬ビクッとした後、睡が振り向いて気まずそうに答えた。
「う~ん、当たらずとも遠からず……かな?
ちょっと悩み事が有って」
なんだかふんわりした事を言うなと思いながらも、ステラは睡をカウンター席に座らせる。
それから詳しく事情を聞くと、どうにも自分の事を素直に受け入れられなくて、自信を無くし気味なのだという。
「う、ううん?
なんか私にはそれだけだと難しい内容なんだけど、どの辺が素直になれないの?」
難しい顔をするステラに、睡が恥ずかしそうに説明する。
「あの、前に話した、好きな子が居るって言う話、覚えてる?」
「え?勿論」
「実はその事なの……
相手の子に気持ちを伝えたいんだけど、そんな事出来そうにもなくって、そう考えてる内に、 だんだん本当は好きなんじゃ無くてそう勘違いしてるだけなんだって、言い訳っぽい気持ちが出る様になっちゃって……」
「うむ……」
これは結構深刻な問題だろう。
ステラが迂闊にアドバイスを出来る話ではないし、睡が自分で考えて結論を出すべき事だ。
でも、睡は助けを求めてここに来た。
これはもう、どっちに転ぶかは解らないが素直にお守りを渡して少しでも安心させた方が良い。ステラはそう判断した。
「OK。じゃあありのままを素直に受け止められる様になる組み合わせでブレスレット作ってあげるよ。
ただし、組み合わせの関係で若干値は張るけど良い?」
睡は黙って頷く。
作ると決まったところで、ステラはタオルの上に青緑色の石を広げ、睡に選ばせる。
「なんか不思議な色の石だね。なんて言うの?」
「クリソコラって言うんだけど、正直言うと余り人気の有る石では無いんだよね」
「そうなの?でも、私は綺麗だと思うな」
そんな話をしながらクリソコラを選び終わり、次は琥珀だ。
そして琥珀を数珠選ぶと、ステラがゴム紐に通してブレスレットを作り始めた。
時折睡の手首に合わせて長さを調節するのだが、その度に睡がステラの事をじっと見つめる。
「どしたん?」
「いやぁ、慣れてるなって思っただけ」
「まぁ、この仕事始めてそれなりに経つからね」
「他の店員さんから頼りにされてるんじゃない?」
「あ~、割と石の事訊かれるね。
そろそろ他の店員も、石の見た目と名前を一致させて欲しいんだけど」
二人が話している間にもブレスレットは完成し、完成形を確認する為にタオルの上に置いた。
すると、ステラの肩からサフォーとルーベンスがカウンターの上に飛び降りて、ブレスレットに鼻をこすりつけ始めた。
それを見て睡が驚く。
「え?このカエルさん達何してるの?」
「ああ、多分お守りの効能を高めてくれるおまじないをしてるんだと思うよ」
両手を合わせてくねくねと踊る二匹を見ながら、ステラがざっくりと宝石ガエルについての説明をする。
「いつもは隙あらば石を食べようとしてるんだけど、偶にこう言う事もしてくれんのよ」
「へぇ、そうなんだ。
カエルさん達、ありがとうね」
睡がお礼を言うと、おまじないが終わった二匹はスチャッとポーズを取ってから、ステラの肩へと戻った。
その翌日、ステラは店長から嬉しい報告を聞いた。
このところステラの業績が非常に良いので、時給を上げるという事になったそうだ。
そして更にこんな事も。
「ステラちゃんが良いって言うんだったら、高校卒業後にウチの社員になって欲しいって上の人が言ってるんだけど、 お前としてはどうなんだ?」
流石に社員登用という話まで出てくると驚きを隠せない。
「え、あの、一応卒業後は宝石鑑定士の専門学校行こうかと思ってるんですが……」
「う~ん、そうかぁ。
まぁ、無理に学業をやめさせるのもアレだし、専門学校行ってもウチでバイト続けて欲しいところだね」
「あ、私としてもここでのバイトは続けたいです」
そんな話を受けて心浮き立たせつつ、その日の仕事をこなしたのだった。
それから暫く経って。
例によって魔法少女の仕事を終えたステラと睡が、ファーストフード店でポテトをつまみながら話をしていた。
「そう言えば、ステラに作ってもらったブレスレット、効果あったみたい」
「おう、それは良かった」
結局睡がどの様に決着をつけたのかは気になったが、余り詮索しても惑わせるだけの様な気がしたし、何より、 聞いてもどうせ気の利いた事など言えない。
そう思ってステラは深く訊かないで居たが、睡の方からその件について話し始めた。
「私、やっぱり好きなんだって。そう受け止められたの。
でも、告白はしないと思うな……」
「そうなの?
伝えないと後悔しそうな気はするけど、この件に関しては難しいからなぁ」
ステラの何気ない言葉に、睡は少し泣きそうな笑顔でこう言った。
「ステラって、偶に凄く残酷な事言うよね」
「え?
偶にどころか常日頃言ってるつもりだけど?」
何食わぬ顔のステラに、サフォーとルーベンスが左右からぺちぺちと顔を叩きながら抗議の声を上げる。
「んも~、ご主人様はなんですぐそう言う投げやりな事言うケコか?」
「睡様はすっごく悩んでるケコよ?
適当にあしらっちゃダメケコ!」
「あ、ごめん。
こう言う返しを条件反射でやっちゃう癖があるんだわ」
カエルに叩かれて反省の色を見せるステラに、睡が真剣な眼差しを向ける。
急にどうしたのだろう、やはり睡も怒ったか。そう思うステラ。
だが、睡は怒っている訳では無かった。
「私、ずっとこの気持ちを言わないでいようと思ってたんだけど、気が変わっちゃったな」
それを聞いてステラは笑顔を向ける。
「おう、告白する勇気が沸いてきたか」
「うん」
睡の事だ、どういう結果になっても悔いる事は無いだろう。ここは影ながらに応援を……とステラが思った矢先、 睡がステラの手を握ってこう言った。
「私、ステラの事が好きなの」