第九章 卒業の季節

 春、蓮と琉菜は無事に志望校に受かり、卒業式を迎えた。

卒業証書の入った筒を持ち、二人は待ち合わせていた電気街近くの喫茶店で話をしていた。

「あたしたち、卒業しちゃったね」

「うん。

なんかあっという間の三年間だったな」

「これからますます会える機会、減っちゃうね」

「うん。なんか調理師学校ってカリキュラムが詰まってるみたいだし」

「あたしも英語だけじゃ無くて第三、第四外国語くらいまで取りたいからな~。

英文科は結構暇って聞くけど、暇無さそう」

「取るの外国語だけ?エスペラントとかは講義無いの?」

「エスペラントは何処の国言葉って言うわけじゃ無いから、外国語に含まれないんだよ。

必修だけど」

 たわいも無い話を喫茶店でして。

ふと、蓮が琉菜にこう持ちかけた。

大学生活が上手くいく様に、神社にお参りに行かないかと。

琉菜も縁担ぎは嫌いでは無いので、蓮お勧めの神社まで行く事になった。

 

 電車に乗り暫く、二人は神社でお参りをし、使い捨てカメラを持った蓮に促されて併設の庭園に居た。

「蓮も相変わらず風景写真好きだね」

「どう撮ってもそれなりに見えるから」

「それな」

 何枚も写真を撮り、使い切った所でまた新しい使い捨てカメラを出す蓮に、琉菜が問いかける。

「そう言えば、デジカメじゃ無いんだね。

コストパフォーマンス考えたらデジカメの方が良さそうなんだけど」

 それに対し、蓮はクスリと笑って答える。

「確かにお金は掛かるけど、デジカメじゃ撮れない様な雰囲気で映るから好きなんだ」

「でも、写真かさばらない?」

「フォトアルバムを作るの好きだし、それに写真屋さんに頼めば最近はCD-Rに焼いてくれるよ」

「こだわりのカメラ女子は言う事が違うなぁ」

 そんな雑談をしながら、庭園の奥へ奥へと進む二人。

ふと、周りに木々が茂り、道の無い所へ出た。

「えっ?ここどこ?」

 来た道すらも見当たらないその場所に、琉菜が戸惑うが蓮は落ち着いた様子。

 ふと、二人に声が掛かる。

「あら、蓮さん。その子はお友達?」

 優雅に話しかけてきているのは、鏡の樹の魔女。

状況が飲み込めていない琉菜に、蓮が簡単に説明をする。

自分は、あの鏡の樹の魔女にマジカルロータスへと変身する力を授けられ、今その力を返上しに来たのだと。

「蓮さんがマジカルロータスであると言う事を打ち明けた問う事は、この子の事をとても信用しているのね」

 そう言って微笑む鏡の樹の魔女に、琉菜が問いかける。

「マジカルロータスに変身する力を自分から返上しに来なかった場合って、どうなるの?」

 その質問が意外だったのか、鏡の樹の魔女は口元に手を当てて答える。

「今まで返上しに来なかった例は無いけれど、返上しに来なくても、一定期間を過ぎると変身する力は無くなるわよ。

でも、今まで沢山の人に変身する力を与えてきたけれど、 あらかじめ期限を伝えておくと人生の区切りみたいな感じで皆さん返上しに来るわ。

大人になった証ですもの」

 そんな話をしている間にも、蓮は首から下げていたネックレスを外し、鏡の樹の魔女に差し出す。

 ああ、これで本当に、自分はマジカルロータスに変身する事は無いのだと、まじまじと実感した。

 ネックレスを受け取った鏡の樹の魔女は、夕日を照り返す木の枝を、二人に向かって振る。

「お二人とも、先程八百万の神様にお願い事をしてきたみたいだけれど、私からも、 この先の人生に祝福が有る様にお祈りをしておくわね」

 そう言って、ちらちらと反射する夕日を、二人に当てる。

「卒業おめでとう」

 

 その後二人は再び庭園に戻り、たわいもない話をしながら写真を撮っていた。

 ぽつりと琉菜が言う。

「蓮さ、さっき、鏡の樹の魔女?さんに、あたしの秘密話さなかったよね」

 少し安心した様な、そんな顔をする琉菜に、蓮が突然カメラを向けてシャッターを切る。

「うわっ、びっくりした」

「んふふ、記念に琉菜の写真も撮っておこうと思って」

 そう言ってカメラのフィルムを巻く蓮。

フィルムを使い切ったのを確認してからカメラを鞄に入れ、琉菜にこう言った。

「琉菜の秘密は、私と琉菜だけの秘密。

そうでしょ?」

 その言葉に、琉菜は頬を染めて返す。

「いや、実は妹も知っては居るんだけど……」

「でも、妹さんは私がマジカルロータスだったの、知らないでしょ?」

「流石にそれはね」

「だから。

両方の秘密を知ってるのは、私達だけ。

だから、鏡の樹の魔女には、琉菜の事話さなかったの」

 その言葉に、琉菜は蓮に顔を寄せ、こつんと額同士を合わせる。

「友達同士の秘密?」

「そう。友達同士の私達しか知らない秘密」

 暫く二人ともそうしていたが、蓮が卒業証書の入った筒で、琉菜の胸を叩く。

「そろそろ帰らないと、お母さん達心配しちゃう」

「そうだね」

 それから、二人は並んで歩き出す。

二人の足音が響く中、夕日が庭園を照らしていた。

 

 それからだいぶ経って。

調理師学校の実習で忙しい蓮と、語学の単位を詰め込めるだけ詰め込んだ琉菜はお互い忙しく、 なかなか会う機会はなかったが、お盆休みや冬休みなどには偶に会っていたし、 時間の空いている時にメールのやりとりなどもしていた。

なかなか会えないのは寂しいけれど、卒業式のあの日、 庭園で二人とも友達だと再確認した時の事を思い返せば、乗り越えられた。

 蓮は二年間調理師学校に通い、無事に卒業出来た。

琉菜は大学を卒業するまであと二年かかるが、一足先に蓮は社会人になった。

勤め先はインスタント食品等をを作っている食料品会社で、商品開発部門で働いている。

 学生時代にも負けない程忙しい日々では有るのだが、 魔法少女をやっていない分いくらか時間にゆとりが有る様に感じた。

社会に出てから仕事をこなせる時間感覚を身につけられたので、 魔法少女をやっていたのは自分の為でも有ったのだと改めて思う。

 そんなある日の事、休憩時間中にスマートフォンが震える音が聞こえた。

自分の持っているスマートフォンでは無いし誰のだろうと思い音の元へ行くと、 そこには席を外している同僚のスマートフォンが置かれていた。

 メールの着信だったのか、スマートフォンは一頻り震えた後、ロック画面を映し出した。

 それを見て蓮は驚きを隠せない。

そのロック画面に設定されている画像は、髪の色こそ違う物のマジカルロータスの写真だったからだ。

……この席、柏原さんの席だよね……

 スマートフォンの持ち主の事を思い出し、ふと、高校三年の時に喫茶店で同席した二人の男の子の事を思い出した。

確かその時に、マジカルロータスのファンだと言っていた子が、 いつまでも自分の事を覚えていてくれると、そう言っていた。

 思わず感傷に浸り滲んできた涙を拭っていると、スマートフォンの持ち主が帰ってきた。

「あれ?森下さん何か用です?」

「えっ?あ……

なんかスマホが鳴ってたから気になっちゃって」

「え?メールかな?」

 そう言ってスマートフォンをいじる同僚に、蓮は思い切って訊ねる。

「あの、申し訳ないんですけど、その、ロック画面が目に入っちゃって、 ロック画面の写真は何処で撮ってきたのか気になるんですけど……」

 ロック画面とは言え人のプライベートを覗き込んだ事に罪悪感を感じつつ、気になった事を訊ねると、 同僚は素直に答えてくれる。

「ああ、昔からの友人が撮ってきた写真を貰ったんですよ」

「そうなんですか」

 同僚の言う昔からの友人という人物が気にはなったが、その事についてまでは訊く事は出来なかった。

 

†next?†