オフ会が終わってから数日、正はスマートフォンに入っている写真を見て、その度に満足感を覚えていた。
仕事先に行く途中や、部屋に帰ってきてから。元気が欲しい時や疲れた時などにオフ会の写真を見ると、 癒やされる気がするのだ。
行く前は不安だったけれど、行って良かった。そう思いながら、自分の持っているカエル人形が、 仲良く他の人形と並んでいる写真を眺める。
仕事が終わり、ベッドの上でスマートフォンを眺めていると、メールを受信した。
何かと思ったら、弟の勤がオフ会の時どうだったのかの心配をしているようだ。
今メールを送ってきたと言う事は、勤も仕事中では無いだろう。そう判断した正は、勤に電話をかけたのだった。
そして次の休日、正は勤を飲みに誘って、繁華街にある英国式パブを訪れていた。
「で、正兄ちゃん、オフ会どうだったん?」
モヒートを飲みながら心配そうにそう言う勤に、正はビールのジョッキをテーブルに置き、 スマートフォンに入った写真を見せながらオフ会の時の事を語る。
「いやぁ、思ったより良い人ばっかりで安心したよ。
行く前はカエルは仲間に入りづらいかなって思ったんだけどさ、実はカエル持ってるって子も居て。
やっぱカエルかわいいじゃんって確信したね。
他の人が持って来た人形も、どれもかわいくてさ、改めて実物見ると色々欲しくなるなーって思ったんだよな」
その後も延々と、正は勤にオフ会と人形の事を語り続ける。
勤は偶にそうかそうかと相づちを打ちながら、正の話を聞く。
コミュニケーションの輪を広げるのが苦手な正が、 こうやって人との交流を楽しそうに語れるのが、きっと嬉しいのだろう。
「そっか、良かったな。
オフ会で会った人とはその後連絡とかしてんの?」
勤の問いに、正はスマートフォンをしまい、ビールを一口飲んで答える。
「SNSで写真にコメントしたり、そのくらいかな。
流石に個人メッセージを送るとかってなると、女の子多かったからナンパって思われてもまずいから、それくらいかな」
「えらい、正兄ちゃんがちゃんと配慮してる」
「勤は俺の事なんだと思ってん?」
正の言葉を聞いて、オフ会の参加者は女性が多かったと知った勤が、 正に訊ねる。今回の参加者の中で気の合いそうな子は居たか?などと。
おそらく、次に彼女にするなら正と同じように人形趣味のある女性が良いと思ったのだろう。それに気付いた正は、 オフ会はあくまでオフ会で、付き合うとかそう言う事は考えてない。と返す。
それから、苦笑いをしてこう言った。
「今回のオフ会、確かに女の子多かったけど、みんな勤より年下なんだよな~。学生さんばっかり。
もしナンパOKだったとしても手は出しづらいよ」
「えらい、正兄ちゃんが自重してる」
「だからお前は俺の事なんだと思ってん?」
こんな調子で話は進み。正と勤はほろ酔い加減になるまで飲んで、家路に就いたのだった。
正が部屋に帰り、スマートフォンでSNSを覗くとメッセージが届いていた。
送信元はユカリで、オフ会の記念に、あの時の写真を参加者から集めてフォトブックを作りたいとの事で、 欲しいかどうかの希望と、もし欲しいのなら、載せる写真を提供して欲しいと言う内容だった。
それをみて正は、フォトブックを個人で作れるのかと思いながら、ベッドの上でごろごろする。
「……えー、もしかしてこれ、俺が撮った写真も本になるって事か?
……
マジでか、すげぇな!」
改めて自分の撮った写真が本になった所を想像して、正は足をばたつかせる。
興奮気味になりながら、フォトブックの仕様など、メッセージに書いてある詳細を確認する。
一人当たりが提出する写真の枚数は、どれだけの参加者が希望するかによって変わると言う事が書かれているが、 喩え一枚でも、自分が撮った思い出の写真が形になるならと、正はフォトブックを希望するという返事をユカリに返した。
それから数日、フォトブックの希望者が確定し、提出する写真の枚数の上限が確定したというメッセージが届く。
元々のオフ会参加者自体がそこまで多くなかったせいか、上限枚数は多めだ。
上限いっぱいまで提出しなくても大丈夫だという事も書かれているので、正は肩の力を抜いて、 オフ会の時の写真を吟味する。
「おお……改めて見てみるとすごい枚数有るな」
漫然と見ているだけの時は気がつかなかったが、オフ会の時は余程テンションが上がっていたのだろう、 フォトブックの規定枚数を遙かに上回る数の写真が有った。
どれも捨てがたい。そうは思うが、他の参加者に迷惑を掛ける訳には行かないので、正はじっくり、 じっくりと時間を掛けて、フォトブック用の写真を選び出したのだった。
フォトブックの写真を提出してから暫く、正の元にユカリからメッセージが届いた。
なんでも、フォトブックが出来上がったので、フォトブックの送り先住所を教えて欲しいとのことだった。
SNSのメッセージ機能で住所を教えるのは不安だと思ったが、メッセージを最後まで確認すると、 住所の送り先メールアドレスが書かれている。
それを確認して、正は送り先住所をユカリに伝えたのだった。
送り先住所を伝えてから数日、正の部屋のポストに大きめの封筒が入っていた。
もしかして。そう思って封筒を開けると、なから顔を出したのは、手の平に乗るほどの大きさをしたフォトブック。
慌てて部屋の中に入り、ベッドに座ってフォトブックを開く。
すると、手のひらに収まってしまうほど小さい本なのにもかかわらず、詰まっている思い出でずっしりと重い様に感じた。
フォトブックを見て正は、改めてオフ会に参加して良かったと、そう思った。
それから数ヶ月後、七海がまたオフ会を開くという話が出たのだが、生憎仕事で参加出来そうもなかった。
また次以降の機会が有れば、また参加したいなと、それから、自分は行けないけれども、 行った人は楽しんでくれれば良いなと、そう思ったのだった。
参加出来なかったオフ会から数日、正はスマートフォンでユカリにメッセージを送った。
SNSのメッセージでは無く、フォトブックのやりとりをする時にメッセージアプリのIDを交換し合っていたので、 直接メッセージのやりとりをすることがそれ以降何度かあるのだ。
オフ会の時の話を聞かせて欲しい。そうユカリにメッセージを送ったのだが、 メッセージでオフ会の話を聞かせてくれるのかと思っていた所に、 良かったら今度一緒に飲みに行かないかという誘いが来た。
折角なら、直接話した方が楽しいだろう。そう思って、正はユカリといつどこに飲みに行くかの調整をしたのだった。
数日後、ユカリと沖縄料理屋に飲みに来た正は、オフ会の話を頻りに訊いて、話に花を咲かせていた。
「え~、そうなん?
俺も行きたかったな~」
「次は来て下さいよ。
今回正さんが来られないって聞いて、ヤバイ男俺一人?って心配になっちゃったんですから」
「次こそ行きたい。次はな。
あ~、もう既に次回が楽しみだなぁ」
ユカリにオフ会の時の写真を見せて貰いながら、正は気分よく飲んだのだった。