奏と会う約束をしてしばらく。ようやくその当日が来た。
奏は友人を連れてくると言ったけれど、どんな人が来るのだろうとか、また週刊誌に勝手なことをされるのではないかとか、そんな事が不安だった。
でも、そんな不安に潰されて、折角奏と遊ぶのに楽しめないのは嫌だと目をぎゅっと瞑ってから開く。少しだけ頭がスッキリした。
目的地最寄りの駅について待ち合わせ場所に向かう。奏とはじめて遊びに出た街の、大通り沿いの駅の出入り口だ。するとそこには、いつも通りきっちりとした格好をした奏と、その隣にラベンダー色の巻き毛をふた結いにして肩に垂らしている、フワフワと可愛らしい服装をした女の子がいた。
女の子? えっ? なんで奏が?
思わず驚いていると、奏の方から声を掛けてきた。
「理奈さんお久しぶりです。
ご紹介します、こちらが僕の友人の千束華子さんです」
奏の紹介に、華子と呼ばれた女の子が軽くお辞儀をしてにこりと笑う。
「初めまして、千束華子です。気軽に華子って呼んで下さいね」
奏に女の子の友達がいるという事実をなかなか現実として受け入れられなかったけれども、頭を軽く下げて挨拶をする。
「初めまして、月島理奈って言います」
すると、華子さんは大きく口を開けて驚いたような顔をする。それから、小声でこう言った。
「本当に本物の理奈ちゃんだぁ……
えっ、すごいテレビで見るよりかわいい……」
「そうですか? ありがとうございます」
こうやって褒められるのは嬉しい。お肌の手入れはもちろん、内側からきれいになるように食事にも気を遣っているのだ。
それにしても、と改めて奏を見る。
「まさか女の子を連れてくるとは思わなかった」
「先日からのあの状況で、男性を連れてくるわけにもいかないでしょう」
「それはそうだけど、奏に女の子の友人がいるっていう驚きが」
「わかります」
ふたりでやりとりをしてから、華子さんの方にはなしかける。
「そう言えば華子さんはウィンドウショッピングというか、お店見たりするの好き?」
すると華子さんはにっこり笑ってこう返してくる。
「理奈ちゃんが選ぶお店はどこもおしゃれだって奏君に聞いてます。
おしゃれなお店を見るのだーいすき!」
「そっかぁ。それじゃあまず、お勧めのお店に案内するね」
待ち合わせ場所から歩き出して、大通りに出る。それから脇の小道に入っていって小さなカフェやアパレルショップが並ぶ所にはいる。その辺りを少し歩いて、半地下に入り口がある店にふたりを案内する。
ガラス戸を開けて中に声を掛ける。
「ミツキさんおひさしぶりー」
「あ、理奈さんおひさしぶりー。
お友達も一緒なんですね」
華子さんの事まで友達と言われて少しこそばゆかったけれども、ミツキさんとお話しつつ、奏と華子さんと一緒に店内の物を見る。華子さんは新作のサイハイソックスが気に入ったようでそれを購入していた。
ミツキさんのお店を出ると、お昼時ちょっと前だった。飲食店が混む前に食事を済ませるかと提案すると、奏も華子さんも混む前に席は取りたいとのことだった。それならばと、私はお勧めのレストランへとふたりを案内した。
ミツキさんの店からは大通りを挟んで向こう側にある、少し細めの通り。そこにある建物の二階にそのお店はあった。このお店はウサギをモチーフにしたシュークリームやパフェが有名なお店で、大人向けのお子様ランチもかわいい盛り付けで好評だ。
しっかり食事をしたいと言うのなら大人向けのお子様ランチがお勧めなので、三人でそれをオーダーした。
すると、目の前に運ばれてきたのは大きなプレート。ウサギの顔の形に盛られたご飯とサラダ、骨付きソーセージなどが盛られてボリュームがある。
これを見ておずおずと奏が訊ねる。
「あの、理奈さんはこれを食べきれるんですか?」
「え? もちろん。パフェも食べるよ」
「ヒェ……」
そういえば、奏は男にしては若干小食の傾向がある。もしかしたら食べきれないと思ったのかも知れない。
すると今度は華子さんが奏に言う。
「まぁ、時間はあるしゆっくり食べればいいんじゃない?」
「そうですね……」
「私もパフェ食べるし!」
華子さんの言葉がとどめだったのか、奏は胃を押さえている。
そんな感じで奏だけ前途多難だったけれども、食べ始めてしまうと案外食べられる様で、なんとかプレートを食べきった奏を見ながら、私と華子さんはウサギモチーフのパフェを食べていた。
パフェを食べながら、ふと、華子さんが私をじっと見ているのに気づいた。
「ん? なんか付いてる?」
そう訊ねると、華子さんは真面目な顔でこう言った。
「理奈ちゃん、テレビに出てるときもセンス良いって思ったけど、オフタイムでもめっちゃセンス良いなって思って」
それを聞いて上機嫌になる。我ながら単純だとは思うけれども、褒められるのは好きなのだ。
だからというわけではないけれども、私も華子さんにこういう。
「華子さんもメイクかわいいよね。
一見ケンカしそうなカラフルさなのにちゃんと馴染んでるし、元の顔のかわいい雰囲気をちゃんと引き立ててる感じする」
すると今度は華子さんがにっこりと笑う。そのままふたりでメイクの話になって、そのながれで、メイク用品の色合わせや使い方なんかは、ミツキさんのお店に勤めてる桐和さんが詳しいという情報を提供して、華子さんからもお勧めのメイク用品の情報を貰ったりした。
ふたりでふっと奏の方を見る。話しについていけていないのではないかと思ったのだ。
すると奏はにこにこしながらこう言った。
「聞いているのも楽しいので」
それならばと、言葉に甘えて沢山話をしよう。その話の中で、私は華子さんに訊ねる。
「ねぇ、華子さん」
「なぁに?」
「華ちゃんって呼んでいい?」
「もちろん! 私もはじめっから理奈ちゃんって呼んでるし」
「あ、それもそうか」
ふたりで笑い合って、そうしていると奏が鞄の中から長方形の紙を出して私たちに見せる。
「ん? これは?」
不思議に思って訊くと、奏が言うにはこうだ。
「今度、僕が出演するコンサートがあるんです。招待チケットですので、もしお暇でしたら足を運んでいただけると嬉しいです」
そういえば、奏はクラシックの歌手もやってるんだっけ。華ちゃんとふたりで日程を見て、仕事の都合が付きそうなら一緒に行こうという話になった。