夏休みのある日のこと、ある家族が旅行で今は閉山してしまっている鉱山を訪れた。
父は宝石商で、今までなかなか家族と一緒に旅行をすると言うことが出来なかった。
少し大きくなったおなかを抱えた母は、新婚旅行以来とも言えるこの旅行で、 娘と息子がもっと父と過ごす時間が増えれば良いなと、そう思っていた。
今お腹に居る子が生まれてからも、またこんな旅行が出来たら。そんな話を夫にする。
その家族の子供は、中学生くらいの少女が一人と、小学校中学年か高学年くらいの少年が一人。それから、 子供と言って良いのだろうか、少年と同い年の飼い犬が一匹。
今回の旅行先は、家族全員で決めた。
夏休み。と言う事は、少女にも少年にも宿題が有る。
少女は美術の宿題に砂丘の絵を描きたいと言い、少年は理科の自由研究で鉱山のことを書きたいと言っていた。
数日組んだ日程の中で、一昨日は砂丘に行ったから、今日は鉱山。
山の中に有る、ぽっかりと闇を湛えて口を開ける入り口。その周りには観光用か、資料館などが建ち並んでいる。
父や、母や、姉がどこから見ようかと言う話をし、飼い犬までもが少年から目を離したその隙に、 少年は吸い込まれる様に鉱山の入り口へと入って行った。