第二章 玄武岩

 鉱山の中は、真っ暗だった。 入り口から差し込む光が届かなくなると、湿った冷たい空気も相まってまるで夜の中に居る様だった。

 普段、怖い話を聞いた後などは暗い所には怖くて居られない臆病な少年だったが、何故か今は暗くても恐怖が湧かない。

 時折段差から足を滑らせながら進んだ先で、少年は驚きの声を上げる。

目の前と頭上には、星では無いけれども、輝く物が広がっているのだ。

まるで夜空に包まれている様な感覚になりながら周りを見渡すと、ほのかに光る洋燈を持った人影があるのに気付いた。

「やぁやぁ、ここに人が来るのは、久しぶりだねぇ」

 妙に明るい口調で話しかけてくる人影を、少年はお化けかもしれないと思ったが、やはり恐怖は湧いてこなかった。

「ここ、何なんですか?

鉱山の中って光るんですか?」

 少年が人影に問いかけると、黄色いフード付き外套を被り、洋燈をもった人影が近づいてきてこう言った。

「鉱山の中。確かにここには鉱山の入り口から来られる。

でも、正確には、ここは鉱脈の中なんだよ」

 鉱脈の中。鉱脈というのは一体何だろう。不思議に思った少年は首を傾げる。

「石に興味があるなら、案内してあげるよ。

夏休みの宿題にぴったりだろう」

 この夜空の様な空間を案内してくれる。この言葉に少年は嬉しそうに、案内して欲しいという。

それから、少しだけ困った様な顔をして、人影に訊ねた。

「案内してくれるのは嬉しいんですけど、なんて呼べばいいですか?」

 人影は、くすりと笑って答える。

「私のことはおじさんとでも呼んでおくれ。

君からしたら、私はおじさんぐらいの歳だろう」

「わかりました!

それじゃあ、よろしくお願いします。おじさん」

 おじさんの手招きで隣に並んだ少年は、洋燈と輝く物の光の中、奥へ奥へと歩みを進めた。

 

 歩みを進める中で、少年は宙に浮いた、オリーブ色の石を見付けた。

水晶の様な形をしているけれども、こんな色の水晶は見たことが無い。

「触っても構わないよ」

 おじさんの言葉にその石を手に取り、じっくりと眺める。

それから、あ。と声を上げて少年が言う。

「おじさん、これ、ペリドットでしょ?

お父さんのお店で磨いたやつを売ってるよ」

「ほう、君の家は石屋さんなんだね。

その通り、その石はペリドットとも言われているね。

おじさんは、苦土カンラン石って言う名前で普段は呼んでいるけれど」

「クドカンラン石?」

「マグネシウム?って言うのが混じった石だから、そう言う名前なんだ。

『苦土』の『苦い』って言う字は、マグネシウムの事だよ」

 初めて結晶の形をした苦土カンラン石を見て驚いている少年に、おじさんは丁寧に説明をする。

それから、ここ一帯は玄武岩だね。と。

 玄武岩と聞いて、少年は名前は知ってるけれど、どんな物なのかはわからないと、またおじさんに尋ねる。

 おじさんは、少年に説明する。

火山岩の一種で、マグマが早く冷めて出来上がる岩だよ。そう言った。

それから、火山岩は何種類か有って、他にも蛇紋岩、安山岩、流紋岩と言うのが有るよ。と少年に言い、 まずは火山岩から案内しようと、洋燈を揺らした。

 

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