第十章 スカルン地帯

「ここは、スカルン地帯だよ」

 そう言っておじさんが洋燈を掲げると、深緑色の結晶や、灰緑色の結晶、白くて線状の結晶が見え、 他にはさきほど熱帯鉱脈で見た幾つかの石が有った。

 閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、そして硫砒鉄鉱。少年は硫砒鉄鉱だけをひどく慎重に避けながら、 ここで始めてみた結晶を手に取り、おじさんの元へと持っていく。

「おじさん、これは何ですか?」

 少年は、まず深緑色の透き通った石をおじさんに渡す。

するとおじさんはこう説明した。

「これは透輝石だね。玄武岩や安山岩の辺りで見た、普通輝石の仲間だよ。

君が持っているその灰緑色の結晶、灰鉄輝石というのだけれどね、それと一緒に出てくる事が多いんだ」

「この二つは、いつも一緒なんですか?」

 きょとんとした顔をする少年。

それに対して、おじさんは困った様な顔をする。

「そうだね、この二つはいつも一緒というか、すごく似ているんだ。

この石を作っている成分は殆ど同じなんだけど、ある成分の量だけが違って、 その違いで違う石になる連続固溶体って言うんだけど…… 難しいかな?」

「一緒なんじゃ無くて、殆ど同じって言う事ですか?」

「そうだね、そう言う捉え方で良いと思う」

 少年には少し難しい話をした後。おじさんは透輝石と灰鉄輝石を宙に放り、少年の手元に残った、 線状の結晶についてこう話した。

「その、白い筋状の結晶は、珪灰石。

カルシウムと珪素で出来ていて、花崗岩マグマと石灰石がぶつかった時に出来るんだ」

 その話に少年は、マグマと言う非日常的な物と、石灰石…… 少年が知っているのは、 粉になった石灰だが…… と言う身近な物が触れ合って、こんなに繊細な結晶が出来るのかと、 とてもわくわくした気持ちになる。

 さぁ、また先へ行こう。そう言うおじさんの言葉に、少年は珪灰石を放り、おじさんと共に先へと進んでいった。

 

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