「ここは、スカルン地帯だよ」
そう言っておじさんが洋燈を掲げると、深緑色の結晶や、灰緑色の結晶、白くて線状の結晶が見え、 他にはさきほど熱帯鉱脈で見た幾つかの石が有った。
閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、そして硫砒鉄鉱。少年は硫砒鉄鉱だけをひどく慎重に避けながら、 ここで始めてみた結晶を手に取り、おじさんの元へと持っていく。
「おじさん、これは何ですか?」
少年は、まず深緑色の透き通った石をおじさんに渡す。
するとおじさんはこう説明した。
「これは透輝石だね。玄武岩や安山岩の辺りで見た、普通輝石の仲間だよ。
君が持っているその灰緑色の結晶、灰鉄輝石というのだけれどね、それと一緒に出てくる事が多いんだ」
「この二つは、いつも一緒なんですか?」
きょとんとした顔をする少年。
それに対して、おじさんは困った様な顔をする。
「そうだね、この二つはいつも一緒というか、すごく似ているんだ。
この石を作っている成分は殆ど同じなんだけど、ある成分の量だけが違って、 その違いで違う石になる連続固溶体って言うんだけど…… 難しいかな?」
「一緒なんじゃ無くて、殆ど同じって言う事ですか?」
「そうだね、そう言う捉え方で良いと思う」
少年には少し難しい話をした後。おじさんは透輝石と灰鉄輝石を宙に放り、少年の手元に残った、 線状の結晶についてこう話した。
「その、白い筋状の結晶は、珪灰石。
カルシウムと珪素で出来ていて、花崗岩マグマと石灰石がぶつかった時に出来るんだ」
その話に少年は、マグマと言う非日常的な物と、石灰石…… 少年が知っているのは、 粉になった石灰だが…… と言う身近な物が触れ合って、こんなに繊細な結晶が出来るのかと、 とてもわくわくした気持ちになる。
さぁ、また先へ行こう。そう言うおじさんの言葉に、少年は珪灰石を放り、おじさんと共に先へと進んでいった。