おじさんと少年が歩いていると、今度は周辺に黄金色の金属が見え始めた。
それについておじさんは、あれは自然金。自然に出来た金だよ。特に説明する事も無いかな? と言い、歩を進める。
次に見えてきたのは、銀白色をした糸状の金属。
それについておじさんは、あれは自然銀。自然に出来た銀だよ。特に説明する事も無いかな? と言い歩みを進める。
次に見えてきたのは、銅赤色の金属。
おじさんはこう言った。
「ここは銅鉱床だね。そこに見えているのは自然銅だから、特に説明する事も無いと思うけど、 ここには他の鉱石もあるからね。
少しここで待っておいで。持って来てあげよう」
おじさんは洋燈で宙に浮いた鉱石を幾つか取って、少年の元に持ってくる。
まず少年に見せたのは、鮮やかな藍色をした結晶。
「これは藍銅鉱というんだ。昔から絵画の絵の具として使われている石だよ」
そしてすぐさまに、緑色の丸い結晶を見せる。
「あと、これは孔雀石。藍銅鉱とくっついて出てくる事が多い石だよ。これもやっぱり、 昔から絵画の絵の具として使われている石だよ」
それから少年に、これを持ってておくれ。と言って藍銅鉱と孔雀石を渡し、外套の中をまさぐる。
そして出したのは、小さな遮光瓶。
コルクの栓を抜き、少年の手の上に乗った藍銅鉱と孔雀石に、ぽたりと瓶の中身を垂らすと、 石の濡れた部分から泡が出て微かに溶けた。
少年は驚く。
「おじさん、今の、何か怖い薬なんですか?」
石が溶けたのが余程衝撃的だったのだろう。少年は思わず藍銅鉱と孔雀石を放りだし、黄色い外套に掴まる。
するとおじさんは、遮光瓶に栓を填めながら、ふふっ。と笑って少年に種明かしをする。
「藍銅鉱と孔雀石はね、酸で溶けてしまう石なんだ。ああ、でも大丈夫。今使った薬は君もよく知っている物だよ」
「……僕も、よく知っている物?」
「ビタミンCって、聞いた事が有ると思うのだけど、それだよ」
聞いた事の有る名前が出て、少年はほっとした様子。
慌てた事に少し照れてしまっている少年に、おじさんは青紫色に光る石を見せ、次の石はこれだよ。と言う。
その石を見て、少年は不思議そうな顔をする。いかにも金属光沢を纏っているのに、 この様な色の金属は見た事が無いのだ。
少年がどんな石なのかを尋ねると、おじさんは少年に石を渡して説明する。
「これは斑銅鉱と言ってね、銅が取れる大事な石なんだ。
でも、銅は銅だけの結晶も有るし、斑銅鉱は取れる数も少なめな様だね」
「銅が、こんな色になるんですか?」
不思議そうな少年の問いに、おじさんはこう答える。
「表面が空気に触れていない間は、銅色をしているよ。
けれども、空気に触れて暫く経つと、こう言う色になるんだ」
おじさんの説明を聞いて少年は、この石はまるで、夕焼けから夜空に変わる素敵な石だね。と言う。
おじさんも、そうだね。と言って少年の頭を撫でる。
少年が斑銅鉱を手放し、また歩き始める。
すると今度は、黒っぽい結晶と、自然金とはまた違う、けれども金色の石が見えてきた。
「ここは鉄鉱床だね」
おじさんはそう言う。
それから、黒い四角い結晶と、やはり黒い板状の結晶、それに金色の四角い結晶を持って来て少年に見せる。
「これが何だか、わかるかな?」
おじさんの謎かけに、少年は鉱石三つの間で視線を泳がせた後、こう答える。
「黒いのはわからないんですけど、この四角くて金色のやつは、マルカジットに色が似てます」
その答えに、おじさんはきょとんとした顔で少年に尋ねた。
「マルカジット? と言うのはどういう物なのかな? 初めて聞く名前なんだ」
ここで初めておじさんから説明を請われた少年は、緊張しながらマルカジットの説明をする。マルカジットというのは、 アンティークジュエリーに使われている事もある、ダイヤモンドの代用品で、白っぽい金色をした石なのだ。と言う。
それを聞いたおじさんは、なるほどと言った顔で、四角い結晶の説明をする。
「なるほど、君が言っているマルカジットというのは、きっとこの石の仲間の白鉄鉱だね。
この石は、鉱石名では黄鉄鉱と言って、硫黄と鉄で出来ているんだ。
これも白鉄鉱も、良く採れる石だから、ジュエリーにも使いやすいのだろうね」
私が知らない事も知っていて、君はすごいね。と、おじさんは黄鉄鉱を宙に放る。
褒められて嬉しそうな顔をした少年が、残りの二つは何か、おじさんに尋ねる。
おじさんは、両方を少年に見せながら説明する。
「この、四角い結晶は磁鉄鉱。鉄が取れる大事な石だよ。少しだけ磁力を帯びていて、 良く君たちが見掛ける砂鉄。あれも磁鉄鉱なんだ。
次に、こっちの平べったい結晶。これは赤鉄鉱。これも鉄が取れる大事な石だよ」
おじさんの説明に、少年は結晶を手に取り、ぢっと見比べる。
「やっぱり、どっちも鉄が取れる石だから、似てますね」
おじさんはにっ。と笑って返す。
「そうだね。似ている」
少年もにこりと笑って。磁鉄鉱と赤鉄鉱を宙へ放った。