第十二章 元素鉱物

「ここは、どういう地層とは言えないのだけれど」

 そう言うおじさんに付いていくと、周囲には金属光沢を纏った黒い結晶が沢山浮いている。

ふと、おじさんの外套が結晶に擦れた。

すると、擦れた跡を描く様に、鉛色の条線が残った。

「おじさん、マントが汚れちゃいましたよ」

 少年がそう言うと、おじさんは、おや。と言って結晶の跡を見る。

「ここを通る時は、いつもやってしまうんだよ」

 そう言って笑うおじさんは、黒い結晶を手に取り、少年に触らせる。

 指で擦ってご覧。と言われるままに少年が擦ると、指が黒くなった。

驚く少年に、おじさんがこれは一体何なのかを説明する。

「これは石墨と言ってね、鉛筆の芯を作る時に使う石なんだ。

だから、とても軟らかくて指で擦るだけで黒くなるんだよ」

 これを握っていると手が真っ黒になってしまうね。と笑いながら、おじさんは石墨を放る。少年も、 真っ黒になるのはいやだな。と言って。

 また暫く歩くと、今度は鮮やかな黄色の、菱形の結晶が見えてきた。

「おじさん、これ、きれいですね」

 そう言って結晶を一個持って来た少年は、またおじさんにこれがなんなのかを尋ねる。

「これはね、自然硫黄だよ。

良く温泉とかで見掛けるだろう」

 硫黄と言われて、少年は何となく聞いた事の有る名前だなと、温泉にはこんなに綺麗な物が有るのかと、そう思う。

 ふと、おじさんが自然硫黄の結晶を、洋燈の灯にくべた。

するとたちまち異臭が立ちこめる。

「おじさん、温泉の匂いがします」

 急に強烈な匂いがしてどうしたら良いのか戸惑っているのか、変な顔をする少年におじさんは、ふふっ。と笑って言う。

「自然硫黄は温めると溶けて、こう言う匂いがするんだよ。だから温かい温泉には、硫黄が混じっている事があるんだ」

 おじさんの言葉にも、少年は匂いにどうしても馴染めないのか鼻を押さえている。

それを見て、暫くすれば匂いも無くなるからと、おじさんは少し困った顔をした。

 

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