第七章 鮮やかな蒼

 公園内には循環しているバスのような物が有るようだったけれど、 僕達はそれに乗らず、ゆっくりとロックガーデンを歩き、ハーブが沢山植えられている香りの谷を巡り、 子供向けの遊園地があるエリアまでやって来た。

 かなり長い距離歩いたけれど、天使様達は疲れていないだろうか。そう思ってお二人を見ると、 特に疲れた様子は見られない。

「すごいな、色々な物が回っている」

「そうだね、遊園地って基本的に回る物だよね」

 遊具を見ているだけでも面白いのか、 メディチネル様はスマートフォンで写真を撮っている。その傍らにいるプリンセペル様が、僕に声を掛けてきた。

「ところで、昼食はどこで食べるんだ?」

 そう言われ、スマートフォンを取り出して時間を見ると正午を回った頃だった。

「そうですね、この遊園地の出口付近にレストランが有るので、そこで食べましょうか」

「そのレストランには何が有るんだ?」

「美味しい豚肉を使ったカレーうどんがあるそうです」

「よし。ならばそのレストランに急ごう」

 レストランのことを確認するなり、 プリンセペル様は歩調を速める。きっとお腹を空かせているのだろう。メディチネル様も、 仕方ないなぁ。と言った顔をしてスマートフォンをしまい、足早に付いて行く。僕も、歩く速度を速めた。

 

 レストランに着くと、そこはセルフサービスの店で、 注文カウンターに人が並んでいた。席が空いているかどうかはやや不安だけれども、店内は広そうなので大丈夫だろう。

 並んでいる間に、壁に張られたメニューを見る。すると、プリンセペル様が嬉しそうな顔をしてメニューを指さした。

「私はこれにする!」

 指した先にあるのは、真っ青なカレーの写真。写真の色があせて青くなっているとかそう言うわけでは無く、 本当に青い。なんでも、 ネモフィラをイメージして作られたカレーだという。もう少し他にイメージのしようは無かったのかとか、 イメージするならカレーで無くても良いのでは無いかとは思ったけれども、 とにかくプリンセペル様はこのカレーが良いらしい。

「えええ……なんでそんなすごいのにするの……?」

「なんでって、かっこいいだろう」

 発想が子供だ。それはそれとして、残したりしないで下さいね。と釘を刺してから、カウンターで注文をした。

 

 カウンターで各々料理を受け取り、店内のテーブルに着く。僕とメディチネル様はカレーうどんを選び、 プリンセペル様は本当に青いカレーを持って来た。

 あまりにもインパクトの強いカレーを見て、メディチネル様が写真を何枚も撮っている。

「うわぁ、すごいなぁ」

 少しげんなりした顔をして、メディチネル様はスマートフォンをタップしている。 きっとSNSに青いカレーの写真を載せて居るのだろう。まぁ、 確かにSNSに載せたくなる気持ちはわかる。こんなすごい色の料理は、 少なくとも日本国では余り見ない物だし。アメリカなんかだとすごい色の物は結構あるが、 メディチネル様がアメリカの料理やお菓子を実際に見たことがあるかどうかはわからないしね。

 メディチネル様がスマートフォンをいじっている間、じっと待っていたプリンセペル様が訊ねる。

「そろそろ食べても良いか?」

「え? あ、ごめん。もう写真撮ったから良いよ」

「そうか、それではいただきます」

 プリンセペル様が食べ始めて、僕も食べ始める準備をする。カレーうどんの汁が服に付くと洗濯が大変なので、 襟元にハンカチを挟んで、エプロン代わりにするのだ。メディチネル様はその様を不思議そうに見ていたけれど、 良くあるカレーうどんの悲劇の話をしたら、僕と同じように襟元にハンカチを挟んだ。

 それから、僕とメディチネル様もいただきますと言って、カレーうどんを食べ始める。

「ん~、カレーうどんって美味しいね。うどんとカレーって合うんだぁ。意外」

「そうですね、パンと同じくうどんも原料は小麦なので、カレーパンが可能ならカレーうどんも可能でしょう」

「なるほどねー」

 そんな話と、先程回ってきたロックガーデンと香りの谷の話をしながらゆっくりと食事をする。ロックガーデンは狭い物の、 明るくて風通しの良い落ち着ける場所だとか、香りの谷は色々なハーブが植えられていて、触れなくても香るようだったとか、 そんな話をしていて、ふと、ずっと黙っているプリンセペル様の方を見ると、早くもカレーを食べ終わっていた。

「……ねぇ、そのカレー、どうだった?」

 いぶかしげにメディチネル様がそう訊ねると、プリンセペル様はしれっとした顔で答える。

「そうだな、青いだけでとりたて不味い物では無かった」

 そう話すプリンセペル様の口がふと目に入って、驚いた。口の中が青くなっているのだ。

「あの、プリンセペル様、口の中が青くなっていますよ」

 僕がそう言うと、プリンセペル様はぱっと口元を手で押さえて、困ったように言う。

「そうなのか? もしかして歯を磨いてきた方が良いのだろうか。しかし、歯ブラシはキャリーの中だし……」

「困りましたね、この辺で歯ブラシを売っているような所は無いでしょうし」

 僕とプリンセペル様で困っていると、メディチネル様が小さな袋を取り出して、プリンセペル様に渡す。

「これ、拭いて口の中きれいにするシートだから、お手洗い行って拭いて来なよ。いくらかマシでしょ」

 袋を受け取ったプリンセペル様は、お礼を言って、そそくさと席を離れた。

 

 昼食も食べ終わり、園内を出る前に、 プリンセペル様が気にしていた干し芋のタルトを食べに行った。先程の賑やかなレストランとは打って変わって、 木陰で囲われた静かなレストハウスだ。ここもセルフサービスなので、カウンターで注文して、 番号札で呼ばれてから注文の品を取りに行く。

 注文したべにふうきのお茶と干し芋タルトが人数分テーブルの上に並び、 写真を撮っているメディチネル様以外は早速タルトを口に運ぶ。 プティングの様な物に包まれて柔らかくなった干し芋は優しい甘さで、暖かかった。べにふうきのお茶は、 少し草っぽい香りだけれども、苦くも渋くも無く、干し芋タルトの甘さに良く合っていた。

「プリンセペル様、いかがですか?」

 僕が訊ねると、プリンセペル様は満足そうにお茶をマドラーで混ぜながら答える。

「ああ、美味しいな。是非、神にも味わって戴きたい物だ」

 すると、メディチネル様がスマートフォンをテーブルの上に置いてこう言った。

「うん。神も干し芋タルト食べたいって。

でもこれ、お持ち帰り無いし日持ちしないでしょ?」

「そうですね、テイクアウト出来ても日持ちしないでしょうね」

 神様もまめにSNSを見ているのだな。取り敢えず、メディチネル様には日持ちしそうなお土産を教えておこう。

 

 干し芋タルトを食べた後、駐車場の近くにある売店でネモフィラをイメージしたクッキーとおまんじゅうを買って、 海浜公園を後にした。

 これから、福島の五色沼近くにあるペンションへ向かう。時刻は午後二時を回った頃。 今から向かえば夕食には間に合うだろう。

 オーディオで音楽をかけながら、車を走らせる。その中で、 福島には五色沼以外に何が有るのか。と言う話になった。言われてみると、 僕もそんなに福島に詳しいわけでは無かった。福島に親戚が居るという友人から話を聞くと言ったくらいで、実は、 今回予約を入れたペンションも、友人から勧められた所なのだ。

「あまり詳しくは無いですが、きっと良い所が沢山有るのでしょうね。五色沼は勿論ですが、 立派なしだれ桜が見られるところもあると聞きますし」

 福島に限らず茨城もなのだけれど、今回は日程の都合であまりあちこちは回れない。けれど、 その内色々と調べて、時間に余裕を持って、ゆっくり観光するのも良いかもしれないね。

 

†next?†