第八章 憧れの期限

 東京に新しい魔法少女が現れて一年程経った。

円は偶にユカリから、新しい魔法少女に興味は無いのかと聞かれる事が有る。

正直言うと、興味が無い訳では無いのだが、やはりそれ以上にマジカルロータスの方が魅力的だった。

 マジカルロータスも、まだ活動を続けている。

それをニュースで確認した円は、そうか、マジカルロータスは同学年だったのかと安心した。

けれど、同学年といえどももう円もマジカルロータスも三年生だ。

 高校生活が終わるまで後一年。

あと一年の間に、もう一度だけでも良いから、マジカルロータスに会いたいと思っている。

しかしそれとは裏腹に、高校一年の時に出会った思い出を胸に、 このまま彼女の事を見送る方が良いのかもしれないという気持ちも生まれてきた。

 もしもう一度マジカルロータスに出会えたら、彼女はなんと言うだろう。

普通の女の子に戻っても忘れないで下さい。それとも、後輩の事も応援して下さい。だろうか。

 こればかりはいくら円が考えてもわからない事だ。

そして、きっとどんな言葉でも彼女の最後について直接言われたら、 自分は泣いてしまうだろう。そんな所はマジカルロータスに見せたくない。

だから、このまま見送った方が良いのかもしれないとも思い始めたのだ。

 ふと、円はゆきやなぎと冬桜のことを思い出す。

あの二人も、マジカルロータスが魔法少女を引退した後、彼女の事を覚えていてくれるだろうか。

もしあの二人が、マジカルロータスに興味を向けなくなったら、自分は取り残されてしまうのでは無いか。

 不安だった。

憧れであるマジカルロータスが居なくなってしまう事と、忘れられてしまう事が怖かった。

 

 ある日の事、最近沈み気味な円に、ユカリから東京に遊びに行かないかと声を掛けられた。

このところは受験勉強でイベントに行く事も無く、東京には行っていなかったので、 久しぶりに行こうとユカリの誘いに乗る。

 行き先は東京の電気街。

そう言えば電気街の近くに有る喫茶店で、初めてマジカルロータスに会ったと言う話をユカリにして、 円はその喫茶店で一服していこうと声を掛ける。

ユカリも、折角円の思い出に場所に行けるならと、一緒に喫茶店に入った。

 

 喫茶店に入ると、あの時の店員とマスターが出迎えてくれた。

円は一瞬、高校一年のあの時に戻った気がした。

コーヒーを頼み、ユカリと二人で談笑しながら用意されるのを待つ。

 そうしていると、喫茶店のドアが開いた。

反射的に円が入り口の方を見ると、背が低めの、ふんわりとしたボブカットの女の子が立っていた。

「あ、蓮。いらっしゃい」

「んふふ。琉菜がもうすぐここのバイト辞めちゃうって聞いたから、来ちゃった」

 仲の良さそうな二人を見て、マスターが店員に言う。お友達が来たなら、 少し休憩してそこでコーヒーでも飲みなさい。と。

その言葉に店員はその友人と、円達が座っているカウンター席に座る。

円の隣に、店員の友人が来る形になった。

 この二人も積もる話が有るだろうからと、なるべく話を聞かないようにしながら、円はユカリと話をする。

そしてぽつりとこう言った。

「このお店に来れば、マジカルロータスちゃんにもう一回会える気がしたんだけどな」

「何言ってんだ。

そんな上手くいくはず無いだろ」

 そう円とユカリが笑い合ってると、円の隣に座った女の子が話しかけてきた。

「あの、マジカルロータスさんに会った事が有るんですか?」

 突然なんだろう?そう疑問に思ったけれど、マジカルロータスの事に関してはとても話したいので、 高校一年の時にこの喫茶店で会った事を女の子に説明した。

「そうなんですか。

なんか、あなたのマジカルロータスさんに対する熱意が伝わってくる気がします」

「そうですか?

確かに熱意は有りますけど、でも、マジカルロータスさんはもうすぐ引退するらしくって、その後、 もし皆に忘れられていったら悲しいなって、俺は思ってるんです……」

 最後しょんぼりとした様子でそう言う円に、女の子はこう言う。

「実は、私もマジカルロータスさんに会った事が有るんです。

その時に、皆に覚えていて貰わなくても良い。誰か一人だけでも覚えていてくれれば。

って言っていましたよ」

「そうなんですか……」

 マジカルロータスと会って話がしたことが有るという女の子の事をうらやましく思いながらも、円は決意する。

「俺、その誰か一人になる」

 すると女の子がこう言う。

「それを聞いたら、きっとマジカルロータスさんも喜びますよ」

 その言葉と、女の子の微笑みを見て、何故だかマジカルロータスの面影が重なって見えた。

 

 女の子達も交えて暫く談笑した後、円とユカリはホビーショップに来ていた。

円は勿論、ユカリも案外プラモデルやフィギュアに興味があるようで、色々と見て回る。

 各々財布と相談しながらフィギュアを眺め、購入するかどうかを検討する。

「あれ?ユカリ、それ買うの?」

「うん。このシリーズは気に入ったのが出た時に買っとかないとすぐ消えるんだよ」

 ユカリが手に持っているのは、フィギュアと人形を会わせた様な物で、様々なオプションパーツが付いている。

 こう言う人形みたいなのにも興味があるのかと思う円。

ふと、ユカリに訊ねた。

「そう言えば、女の子のフィギュア好きみたいだけど、ユカリには憧れの子って居たりしないのか?

二次元でも三次元でも」

 するとユカリはこう答える。

「二次元で俺の嫁ってのは余り考えた事無いな。

でも、三次元でなら憧れって言うか、大事な人居るよ」

「え?彼女居たっけ?」

「彼女じゃ無いよ。

と言うか彼女居ないよ」

 彼女で無いなら誰だろう。

根は真面目なユカリの事だから、大事な人となると両親や、家族か。

そう思った円がまた訊ねると、ユカリは気まずそうに笑ってこう言う。

「あ~……あの……

お前も知ってる人」

「俺も知ってる?

もしかして、マジカルロータスちゃん?」

「惜しい」

 マジカルロータスで『惜しい』となると、新しく現れた他の魔法少女だろうか。

しかし、それにしてはユカリの口から新しい魔法少女達の名前は出ない。

 ふとピンときた。

「もしかして、ゆきやなぎさんと冬桜さんとか?」

「あいやっ……」

 どうやら図星の様だ。

しかし、会った事も無いのに大事な人だなんて、どういう事だろう。

円はそう思ったが、すぐに思い直す。

 自分だって、マジカルロータスと親しいわけでは無い。けれども彼女は憧れだし、忘れたくない大事な人だ。

 ユカリが憧れと言っているゆきやなぎと冬桜は、円からなら連絡を取る事も出来る。

自分はチキンだからと言ってイベントに行き渋るユカリを説き伏せて、その内一緒にイベントに行って、 皆で話をする機会を作れたらな等と、円は思う。

「ユカリ、今度一緒にイベント行こうぜ~」

「なんで?」

「ゆきやなぎさんと冬桜さん紹介するよ」

「ヒント、俺チキン」

「いつまでもチキンじゃ何の進展も無いだろ?」

 そんな話をしながら、二人は取り留めも無くホビーショップを回ったのだった。

 

†next?†